研究課題/領域番号 |
18K00692
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研究機関 | 東京福祉大学 |
研究代表者 |
内藤 伊都子 東京福祉大学, 教育学部, 教授 (90569708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 在日外国人のキャリア形成 / 在日外国人の職場での対人関係 / 元留学生 / 外国人正規就労者 / 縦断的研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本で正規就労者として働く元留学生を対象とした全5段階による縦断研究である。それぞれの段階で同一調査協力者に対し、職場での対人関係や日本でのキャリアデザイン等の変化を明らかにすることを目的に、インタビュー調査と質問紙調査を実施する研究計画である。2021年度についても、2つの縦断群の調査協力者に対し、引き続きインタビュー調査と質問紙調査を実施し、2つの学会で口頭発表を行った。具体的には以下の通りである。 調査:2018年度より調査協力者となっている第1縦断群の6名に対し、4月に第5段階すなわち卒業・修了から日本で就職して2年前後経過した「経験期」の調査を実施した。また、同じく4月には、2019 年度より第2縦断群の調査協力者となっている9名に対し、第4段階すなわち就職から1年前後経過した「習練期」の調査を実施した。 学会発表:まず、第1縦断群の「経験期」の状況と「経験期」に至るまでのキャリアプランの変化を中心にまとめ、2021年10月に開催された多文化関係学会第20回年次大会にて口頭発表した。次に、第1および第2縦断群の第4段階「習練期」までの質問紙調査のデータを統合し、職場での対人関係とセルフ・モニタリングの変化について統計分析した結果を、11月開催の日本比較生活文化学会第37回研究発表大会にて口頭発表した。 意義・重要性:縦断研究における困難さとして、当初の調査協力者から継続して協力を得られるかということとともに、本研究では就職してから2年程度経過するまでの過程を5段階に設定しているため、適切な時期に調査が実施できるかという問題もある。これまで帰国をした1名を除き、コロナ禍においても15名より適切な時期に調査協力を得られており、このような縦断的データを得ることで、各段階の特徴を見出し、異文化環境でのキャリア形成や対人関係の変化について分析が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度についても、前回の研究実施状況報告書の中であげた課題と具体的な研究計画を達成することができたため、おおむね順調に進展していると思われる。本研究は、採択以前より進めていたものの、初年度に研究倫理審査の承認を得てから改めて調査を開始したため、当初の研究計画より1年ずつ研究全体が後ろ倒しとなっている。したがって、その点を除けば、その後は計画通り順調に進んでいる。具体的には以下の通りである。 まず1つの課題は、本研究は縦断調査であるため、時間の経過とともに調査対象者としての条件を満たしながら、継続して当初からの同一調査協力者に協力が得られるかどうかということであった。これについては、第3段階「研修期」の調査後に帰国をした1名を除き、15名が引き続き日本で正規雇用として働いており、調査対象者としての条件を満たしていた。このため、15名に依頼が可能となり、結果として15名全員から調査協力を得ることができた。また、調査時期が設定されている研究計画であるため、設定期間中に調査協力者の都合を考慮しながら全員の調査実施を完了することができるかどうかということも課題であったが、調査時期についても、研究計画で設定した適切な時期に調査をすべて完了することができた。 もう1つの課題は、COVID-19の影響により対面でのインタビュー調査や質問紙調査が困難であったことである。この点についても、2020年度と同様に調査協力者の協力により、Zoomを使用して調査を実施することができた。また、調査協力同意書や質問紙等については、郵送により回収することで課題は達成できた。 さらに、研究成果を発表する学会の年次大会等については、発表を計画していた多文化関係学会と日本比較生活文化学会がオンライン開催となったことから、両学会においてそれぞれ口頭発表をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたように、本研究は初年度に研究倫理審査の承認を得てから改めて調査を開始したため、設定した調査時期が当初の研究計画より1年ずつ後ろ倒しとなっている。そこで、期間延長を申請し承認されたため、2022年度は第2縦断群の第5段階「経験期」のインタビュー調査および質問紙調査を実施する。具体的には次の通りである。 2022年度においてもCOVID-19の影響を考慮し、郵送やZoom等を利用して実施する予定である。郵送やZoomを用いた調査は、過去3回の調査においてすでに同一調査協力者に実施済みであるため、必要となる協力者側のデバイス状況や手続き等は確認が取れており、実施可能であると思われる。 まず4月にメール等で連絡を取った後、調査協力同意書や質問紙、謝金振込先記入用紙、切手付き返信用封筒、領収証など調査に必要な書類一式を調査協力者宛に郵送する。同意書と質問紙、謝金振込先は記入、解答のうえ返信用封筒で返送してもらう。次に、インタビュー調査については協力者の希望日時を最優先のうえ、Zoomを用いて実施する。対面調査を希望する協力者がいた場合には、状況を判断し、場所を考慮したり感染防止対策を徹底したりしたうえで、なるべく協力者の希望に沿うように実施する。 第2縦断群の「経験期」調査を終えると、当初の研究計画の全データが得られるため、第1縦断群と第2縦断群のデータを合わせ、第1段階から第5段階までの分析を進めていく。データ量が多いため、分析状況により2022年度中の研究成果の発表を検討していくこととする。 また、調査協力者からは今後についても継続して調査協力の内諾が得られているため、2022年度は追加調査として、第1縦断群の日本で就職をして3年程度経過の状況についても、これまでと同様にインタビュー調査および質問紙調査を実施し、さらに縦断調査を進めていくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の調査は順調に実施することができたため、調査協力者への謝金は計画通りに使用した。一方、調査方法はCOVID-19の影響により対面調査を実施することができなかった。このため、調査にかかる書類の送付や返送などの郵送費がかかったものの、交通費等の旅費は使用することがなかった。また、口頭発表をした2つの学会についてもオンライン開催であったため、宿泊費や交通費等の支出は生じなかった。さらに、マカオで開催予定であった日本語教育国際研究大会は2020年から延期が繰り返されているため、支出は生じなかった。 2022年度の使用計画については、まず調査にかかる費用として使用する。第2縦断群の9名の調査協力者に対して、第5段階「経験期」のインタビュー調査および質問紙調査を予定している。また、追加調査として第1縦断群の6名の調査協力者に対して、日本での就職3年程度経過のインタビュー調査と質問紙調査もそれぞれ予定している。これらの謝金や調査にかかる郵送費等に使用する。対面調査が必要となった場合には、調査地への旅費として使用する。 次に、学会発表にかかる大会参加費として使用する。国内学会は2022年度についてもオンライン開催が多いことから旅費の使用は少ないと思われるが、大会参加費等、発表にかかる費用に使用する。その他、分析に関する書籍を中心に、書籍購入費用として使用する予定である。
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