研究課題/領域番号 |
18K00696
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
森本 豊富 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (30230155)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アメリカ合衆国 / 戦前・戦中期 / 日系市民 / 日本語教育 / 日本語維持・継承 / 日本文化維持・継承 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦前期および戦中期の米国日系二世「日系市民」に対する教育に関して、現地で使用された教科書・教材、邦字紙の記事分析などを手がかりに検証することを目的とした。この目的のために、ワシントン大学図書館スペシャルコレクションのタコマ日本語学校関連史料、スタンフォード大学フーバー研究所、UCLA図書館スペシャルコレクションで調査する予定であったが、2020年3月以降、コロナウィルス感染のため渡米しての調査は叶わなかった。したがって、国内において、(1)国立国会図書館憲政資料室所蔵マイクロフィルムの戦時転住局 (WRA) 関連資料、(2)JICA横浜海外移住資料館所蔵「伊藤一男コレクション」の北米日系人収容所写真および解説、(3)和歌山市民図書館移民資料室所蔵の戦時転住局関連資料、(4)UCLA JARP Oral History Tapesに収録されている1960年代半ばを中心とした聞き取り記録を調査した。 (1)についてはマイクロフィルムをプリントアウトしたものを整理し、(2)の写真全約330点中の英文解説の約半数を和訳し、(3)の移民資料室所蔵資料についてデジカメ撮影して関連資料を入手し、(4)の成果の一部は、Association for Asian Studies 2021 Virtual Conferenceにおいてセッション“The Material Life of the Archive: Promises and Challenges in Documenting the Japanese Diaspora”の中で“The Digital-archiving of the UCLA JARP Collection Oral History Tapes”との題目で発表し、オーラルヒストリーに収録されていた日本語学校、日本語教育に関する項目などについても触れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」状況は、主にコロナウィルス感染の拡大によるアメリカでの現地調査が最終年度で実施できなかったことによるものである。 概要で述べた国内調査の中では、JICA横浜海外移住資料館所蔵「伊藤一男コレクションの北米日系人収容所写真および解説」の和訳を通して、真珠湾攻撃後の北米本土における日系人強制立ち退きの様子について、監督庁であった戦時転住局(War Relocation Authority)の保管していた写真約330枚が、当時の様子をグラフィカルに把握する上で役立った。 北米日系人の強制立ち退きに関しては、よく取り上げられる写真があるが、WRAの保管していた写真は、従来の写真には見られない仮収容所から強制収容所に至る収容所内での生活感が伝わってくるコレクションである。特に、娯楽、スポーツ、イベント関連の写真が多く、収容所内での「文化活動」を知る上で参考になった。一方、取り締まり側が「強制収容」ではなく「転住」とする婉曲的表現にも現れているように、監督する側の立場を正当化する視点が見え隠れする。すなわち、強制立ち退きの生活を享受しているかのような雰囲気を醸し出す写真を抽出していると言っても良い。しかし、それはそれで参考になる記録であり、とりわけ米国市民としての二世が収容所内で、どのような「遊び」に興じていたかを知る為のデータにもなる。 しかしながら、日本語・日本文化の維持・継承が戦前期から戦中期にかけて、どのような状態であったのかを知ることが本研究の目的であることから、国立国会図書館所蔵および和歌山市民図書館移民資料室所蔵の戦前および戦中期の関連資料をさらに活用していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、継続して上記の「概要」で述べた(1)から(4)について調査を継続すると同時に、コロナウィルス感染状況が収束し渡米しての調査が可能になった時に、スタンフォード大学フーバー研究所、UCLAの他にワシントン 大学での調査や、強制収容所に収容されなかった内陸部(コロラド州やユタ州など)・ハワイの日系人コミュニティの日本語・日本文化維持継承状況についても調査を広げていくことを予定している。 しかしながら感染状況の終息は未だ見通せない状況であることから、上記「進捗状況」で触れた伊藤一男コレクションー北米日系人収容所写真および解説」を引き続き和訳し精査していくと同時に、フーバー研究所の「邦字新聞デジタルコレクション」の邦字紙を活用するとともに、戦時中に発行されていた数少ない邦字紙のひとつ「ユタ日報」(ユタ州ソルトレイクシティ)の戦時中の記事から、当時の日本語・日本文化に関連するものを検索し、少しでも手がかりをつかむように努めたい。また、UCLA JARP Oral History Tapesに収録されている1960年代半ばを中心とした聞き取りをのオーラルヒストリーテープの中から、戦前・戦中期における日本語教育、日本文化の維持・継承に関わる語りを抽出し、データとして整理し分析を進めていきたい。さらに、10箇所の強制収容所とは別に、日系コミュニティの指導者たちがとらえられていた抑留所 (Internment Camp)のひとつであるテキサス州クリスタル・シティ抑留所の記録から、日本語教育についての記録を調べ明らかにしていきたい。 コロナウイルスの感染拡大のため、最終年度の予算を使い切れなかったため、30万円弱の予算をもう一年度繰り越したことから、この予算を使って上記に述べた推進方策をもとに研究を遂行して行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に海外での調査を予定していたが、コロナウイルスの感染拡大のため渡航が叶わず国内調査のみとなったことが主な理由である。国内調査においても予算を使い切ることは出来なかったため、30万円弱の余剰分を次年度に繰り越すこととなった。 海外渡航が可能になった場合は、海外調査に使用する計画であるが、国内調査に限定せざるを得ない場合は、2020年度に実施した(1)国立国会図書館憲政資料室所蔵マイクロフィルムの戦時転住局 (WRA) 関連資料、(2)JICA横浜海外移住資料館所蔵「伊藤一男コレクション」の北米日系人収容所写真および解説、(3)和歌山市民図書館移民資料室所蔵の戦時転住局関連資料、(4)UCLA JARP Oral History Tapesに収録されている1960年代半ばを中心とした聞き取り記録の調査を継続的に実施することに使用する計画である。
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