研究課題/領域番号 |
18K00719
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
毛利 貴美 岡山大学, グローバル人材育成院, 准教授 (60623981)
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研究分担者 |
古川 智樹 関西大学, 国際部, 准教授 (60614617)
中井 好男 同志社大学, 日本語・日本文化教育センター, 助教 (60709559)
寅丸 真澄 早稲田大学, 日本語教育研究センター, 准教授(任期付) (60759314)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 講義理解 / ストラテジー / Can-do statements / 談話 / マイクロスキル / アカデミックジャパニーズ / 自己評価 / 聴解 |
研究実績の概要 |
講義理解能力に関する先行研究は、聴解能力などの言語能力の測定が主流であり、講義を聴き取るためのストラテジーや、大学・大学院入学前や入学後にどのようなことが「できる」と講義理解が促進されるかという指標についてはこれまで検討されてこなかった。そのため、本研究では、ミクロ面ではRichards(1983)の講義の聴解におけるマイクロスキルをベースに、寅丸(2010)の「講義の談話におけるメタ言語表現の機能」に基づき行った調査の結果(毛利2017)、マクロ面では人的ネットワークの形成や学習管理(中井2017)という広範囲にわたるマルチモーダルな要素から講義理解のための有効なストラテジーの抽出を行い、講義理解のMicro SkillとしてのCan-do statementsを作成した。 外国人留学生がこれらミクロ、マクロ面の講義理解のためのストラテジーをどの程度意識し、自己評価をしているかを調べるために5件法によるCan-do statementsを作成し、パイロットスタディとして日本の大学学部1年次に在籍する外国人留学生56名を対象としてデータを収集、分析した。2018年7月と2019年1月の2回の調査に協力した学習者42名のデータを分析した結果、講義談話における重点提示や話題提示などのメタ言語/言語指標の聞き取りに関する項目に特に伸びが見られた。一方で12名が半年後の平均値がマイナスになっており、特に「次の話の内容や行動を予測することができる」「他の学生と先生がやりとりをしている時に話の内容を十分に聞き取ることができる」など文脈からメタ的に予測するストラテジーや授業から派生した内容理解に関わる項目は全体でも伸びがマイナスとなり、講義受講経験によって自己評価基準が上がったことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H30年度はこれまでの基礎的研究で得られた結果を元に、ミクロ面(言語キュー、非言語キュー)とマクロ面(人的ネットワ ークの形成や学習管理など)のマルチモーダルな要素から講義理解のための有効なストラテジーの抽出を行い、そのストラテジーに基づき、講義理解のMicro SkillとしてのCan-do statementsを予定通り作成した。その後、3つの大学において、大学に所属する初年次留学生56名を対象としてパイロット調査を行い、Can-do Statementsによる自己評価の結果から、自己評価の点数の平均値が低く、半年後にも伸びが見られないストラテジーが特定できた。それらのストラテジーに特化した「講義理解能力育成のためのWebベース教材」の作成については、Web講義の撮影をH30年2月に開始し、社会科学系の講義を15分×3本録画し、内容について再度検討を行っているところである。やや遅れている理由としては、研究代表者の移動により、3月に撮影予定であった内容が未収録となっているためである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は9月中にH30年度の調査結果から講義理解に有効なストラテジーを抽出し、Web教材の作成とコース整備、ストラテジー・トレーニングの効果検証を目的としてWebベース教材の試用版を完成させる予定である。具体的には、研究代表者ならびに研究分担者が講義理解に有効なストラテジーについて説明する講義動画(5~10 分)とタスク用講義動画(10分~20分)を制作する。タスク用講義の内容は講義理解能力の習得が必要な予備教育課程や大学1年次の留学生が受講する一般教養科目の範囲内とし、人文社会科学系の専門講義を担当している大学教員4~5名に撮影を依頼する。この2種類の講義を1ユニットとして8~10回分のコンテンツを作成し、講義理解のストラテジー・トレーニングのコースとして編成する。 今年度秋学期以降、この講義理解能力育成のためのWebベースの動画教材の効果検証のためにパイロット調査を行う。まず、3つの大学の予備教育課程もしくは初年次のコースの最初と中盤、最後の合計3回に渡り、調査協力者80名(日本人学生40名、外国人留学生40名)に対してノート テイキングと理解テストによる調査を行う。具体的には、デジタルペン(Livescribe社製エコー・スマートペン(echo smartpen))を用いて講義中の音声とノートテイキングのプロセスの記録を行い、講義談話の重要箇所や話題総括など講義の談話のポイントがノートに書き取れているかという受講者の言語実践を分析する。調査の第1回目と最終回にCan-do Statementsによる自己評価を行い、評価の伸びや、前年度の結果との比較を行い、特に習得が意識されたストラテジーについて分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の使用計画としては動画撮影と編集用の費用が主であったが、実際にはパイロット調査用に所属機関のスタジオを使用しての撮影のみに留まり、費用は発生していなかった。今年度は、講義動画作成のためのe-learning コンテンツ作成専門業者を通し、撮影と編集を行う予定であり、これらの制作に伴う費用とLMSの設置費用が発生する。 また、前年度の調査結果の報告を国内外の学会にて発表予定であるため、出張費用が発生する予定である。
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