研究課題/領域番号 |
18K00740
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
築道 和明 広島大学, 教育学研究科, 教授 (30188510)
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研究分担者 |
兼重 昇 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (10304148)
辰己 明子 広島修道大学, 経済科学部, 講師 (90781211)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大学生英語学習者 / 英語学習のつまずき / 情意と認知 / リタラシー / 基礎的英文法能力 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、英語学習に困難を覚える大学生を対象に、そのつまずきの考えられる要因、実態などを明らかにすることを目的とした。そのために、(1)これまでの英語学習や大学での英語学習に対する認識を明らかにするためのインタビュー調査、(2)英語学習におけるつまずきの質問紙調査、の2つの調査を実施した。また、前年度一部実施していた英単語のデコーデイングの実際に関して、データを分析した上で、学会において口頭発表を行った。 本年度後半において、一定程度の学習者の協力が得られたので、授業とのつながりを考えながら、英語学習に対する困難さを質問紙調査や基本構文のテスト等を実施した上で、対象学習者のニーズを踏まえ、授業内の活動に反映させる試みを実施した。また、毎回の授業において学習者の振り返りを記述形式で求め、学習記録として保管し、教員と学習者間のコミュニケーション手段の一つとして活用する試みも行うことができた。結果として、学期末の質問紙調査の結果、学習者のニーズを踏まえた授業内活動の結果、英語や英語学習そのものに対する嫌悪感は、簡単には払拭できないことが明らかになった。一方で、少しずつ達成できる課題について振り返りにより自己認識することを通じて、大半の学習者が英語学習そのものに対しては、学期最初の否定的なイメージから、肯定的なイメージへと変容していた。これらの結果から、英語学習に対する情意面と認知面との反応にはギャップがあること、情意面に訴える指導よりも、少しずつできることを増やし、小さな達成感を味わう経験を繰り返すことが、英語学習への積極的姿勢を高め、学習の成果も上げる可能性が示唆された。 グループ面接のデータ分析は、これからであるが、これまでの英語や英語授業、大学での英語授業に対する率直な意見が聞かれ、今後慎重な分析の上、学会で発表の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度,英語学習につまずく大学生の実態を把握することを目標として設定した。具体的には,特定の少人数に対する集団面接,一定数の学習者(70名)に対する授業とリンクした支援の試み等を行うことができた。結果として,2019年度の具体的な支援に対する観点が明確になってきている。その一つが,(小学校),中学校,高等学校での英語の学びの中で経験してきた英語学習や英語授業に対する嫌悪感を取り除くことには,授業での支援や指導はそれほどのプラスの影響を及ぼさないが,英語そのものの学びでのつまずきを丁寧に一つひとつ見極め,個別支援やクラス全体へのフィードバックを実施し,さらに英語学習の成長過程を学習者自身に回顧・考察させることによって,学習に対する成就感は十分に味わうことが可能であるということが,多くの学習者の振り返りに関する記述内容の分析によって明らかにされた。 また,個々の大学生英語学習者が抱える英語学習のつまずきの要因については,個別的な側面と多くの学習者に共通にみられる側面があることを把握した。多くの学習者に共通する英語学習を妨げるキーになる要因として,英単語の読み(decoding)と綴りとして書くこと(encoding), 意味内容を把握してのテキストの音声化,さらに中学校段階に学習した英語の基本構文,といった点が授業実践並びに実施した質問紙調査を通じて示唆された。 従って,本年度の研究成果を踏まえて,さらに英語学習のつまずきの要因を明確に同定し,そうした諸要因に対応した支援,それも大学生英語学習者の認知的な発達に応じた適切な支援や指導を2019年度は本格的に展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は前年度一部試行した授業内容とリンクさせた英語学習の支援を継続的に進める。とりわけ,(1)個々の学習者のつまずき要因に応じた支援を提供するために,多感覚学習の原理を導入すること,(2)一人ひとりの学習者の過去の英語学習履歴を調査した上での学習ポートフォリオを作成し,授業での支援に活用することを試みる。また,同時に前年度で明らかになった英語学習のつまずきに影響する諸要因について,前年度の結果を再確認するためのデータを集める予定である。 学会発表に関して,2018年度に集めたグループ面接でのデータを分析した上で、大学生英語学習者のニーズを明らかにして、そうしたニーズに対応するための支援や指導の在り方について検討する。この分析結果は2019年8月の日本リメデイアル教育学会等において口頭発表の予定である。 また、前年度後半に行った学習者のニーズや実態と授業内容との結びつけによる授業実践の展開については、学習者の振り返りと質問紙調査での回答などを踏まえて、学習者の変容に焦点を当てて、国内外の学会での口頭発表を行う計画である。また、対象学習者の人数を増やし、前年度の研究の成果及び課題を踏まえて、再挑戦した上で、英語学習につまずく大学生に対する支援のポイントをまとめ、次年度の研究(教材開発)へとつなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,英語学習につまずく大学生のための具体的な支援の教材開発(ICT教材を含む)を試行的に行う予定で,一定の予算を計上していた。しかしながら,英語学習におけるつまずきの実態把握に予想以上の時間がかかり,教材開発のための準備が十分に行えなかった。これが,次年度使用額が生じた主な理由である。 本年度の予算の残額に関しては,翌年度(2019年)において,担当の研究分担者が中心となり,教材開発のための予算として執行する予定である。
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