本研究は、学習指導要領が目指す「英語の授業を英語で教える」という英語科教員の志向・行動に影響を及ぼす要因を、複線径路等至性アプローチにより明らかにすることを目的とした。英語教育実施調査の結果では、高等学校では英語による授業を行うだけの英語力を有した教員が多いにもかかわらず、現場では必ずしもそれが反映されておらず、また中学校では英語力が高校教員に及ばないとはいえ、高等学校よりも英語による授業への努力が垣間見える。しかしそれでも、英語科教員の授業での英語使用は100%には程遠い。 本研究では主に研究代表者・分担者が英語科教員養成に従事してきた、大学の教職課程卒業者で現場の教員になった参加者に対し、大学入学からインタビュー実施時点までの出来事や考え、行動を半構造インタビューでデータ収集した。そのデータに基づき、英語による授業に至る径路をTEM図に書き表して分析を行った。必ずしも所属大学の卒業生という条件を満たせない参加者もいたが、小学校4名、中学校7名、高校11名の英語科教員に話を聞き、TEM図による分析を行った。 その結果、高校では学校による学習者のレベル格差が大きく、転勤が大きな影響を及ぼしていた。中学校でもいえるが、「生徒がわからない、ついてこない」という危惧が、英語による授業を避ける共通の要因であった。そのような中でも授業で英語を使おうとする教員は、生徒に英語でコミュニケーションをとる楽しさを感じてほしい、という思いが強く、それは個人の実体験によるところが大きい。高校では、コミュニカティブアプローチと受験を2項対立ではなく相互作用的にとらえる教員が、授業で英語を使う傾向にあった。研修や留学の影響には個人差があり、具体的に英語で教える方法を体得する内容である必要性が明らかになった。
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