本研究から少なくとも5本の論文の投稿を予定しているが、1本は掲載、2本は投稿中である。一つ目の研究として、将来なりたい自分をイメージした未来志向の自己を規定した「L2(第二言語)動機づけの自己システム」の基づき、動機づけの内部構造を分析した。フランスで日本語・日本研究を専攻する大学生の動機づけは全般に高いが、特に日本語能力を身につけた、確固とした理想的L2自己を築き、L2学習経験をポジティブに捉えることが、言語学習を継続する意思に表れていることが明らかになった。二つ目の研究では、学年別に、言語適性と動機づけとL2熟達度との関係を調べた。1~3年生まで、読解と言語適性の一つである処理速度との相関が顕著で、2~3年生では処理速度が読解の説明変数になることが分かった。しかし、3年生では、聴解や熟達度全体(読解/聴解/文法/語彙)においては、言語適性より動機づけの方が、説明力が高かった。日本語・日本研究専攻という背景も影響している可能性があり、日本語を選択する学生は全体的に言語適性が高く、教室以外でもどれほど言語に接触しようとしているかで違いが生まれた可能性もある。三つ目の研究では、言語適性、動機づけに加え、学習者のビリーフと学習ストラテジーとの関係を探った。自分の課題達成能力をポジティブに判断しているという自己効力感が高いビリーフと口頭能力の習得に価値をおくビリーフを抱いている学習者は、動機づけも高く、多様な学習ストラテジーが使えていることが分かった。しかし、言語適性は他の個人差要因との相関は見られず、単独でL2熟達度に寄与していることが示唆された。4つ目の研究として、口頭産出能力と言語適性の関係を調べているが、その予備段階として、発話データをどのように扱うかを検討し、英語で提唱されている発話単位を日本語にどう適用するかを論じた論文を発表した。
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