研究課題/領域番号 |
18K00771
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
杉山 香織 西南学院大学, 文学部, 准教授 (00735970)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 語彙知識 / リーディング / 読解 / 未知語 / 留学 / 経年調査 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本語を母語とするフランス語学習者(以下、学習者)の受容語彙知識を経年的に調査することを目的としている。学習者の受容語彙知識と読解レベルを留学前と留学後に測定し、データ化を進めている。2019年度までに、2年分のべ46名分のデータを収集した。 2年分のデータが蓄積されたことより、学習者の受容語彙知識の変化を留学前後で分析した。語彙知識は多面的であるが、2019年度は語彙知識の広さのみに焦点を当てた。語彙頻度情報のみを用いて、初中級学習者の留学前後の受容語彙知識を予測できるかどうかを検証した。語彙頻度情報を説明変数、学習者の回答に基づいたクラスター分析によって分類された「既知語」と「未知語」を目的変数として線形判別分析を行った。Fisherの線形判別関数zをもとめたところ、事前テストについては72.50%を、事後テストについては68.60%を正しく予測することができた。2種類の変数のみを使用しても比較的高い確率で既知語と未知語を予測することができることがわかった。さらに、事前テストは未知語の方を、事後テストは既知語の方をより正しく予測する傾向にあることが明らかになった。特に、事後テストでは既知語の約80%を正しく予測することができた。 判定エラーを分析したところ、音や語形の似た形(synform)を持つ単語が多く含まれていた。これらは語彙頻度が高いものであっても、留学を経ても習得されにくい。一方、英語と形のあまり変わらない語や、日本語にも浸透している外来語は、語彙頻度が低くても学習者によって習得されやすいものであることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画と若干の変更が生じたものの、データ収集の進捗状況についてはおおむね順調である。調査に使用したテキストの難易度が高く、タスクの量も多いため、調査者を限定せざるをえなくなったが、46名分のデータを集めることができた。 分析面に関してもおおむね順調に進展している。昨年度は読解能力と語彙知識の関係についての研究を進め、今年度は学習者の語彙知識を予測するモデルの作成と検証まで進めることができた。 他方、予測モデル作成で当初想定していた変数が複数あるが、語彙頻度情報しか分析できていない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である今年度は、これまで行ってきた調査をもとに、受容語彙知識(既知語と未知語)を学習者の言語レベルから予測するモデルを精緻化する。2019年度に検証したモデルは、語彙頻度情報のみを用いたものであったが、それだけでも学習者の語彙知識の約7割から8割を予測できることが分かった。その他の変数についても検討し、精度を上げる。 また、本研究結果を使用して言語教育への示唆の可能性を探る。たとえば未知語が予測できれば、優先して習得するべき単語を学習者に提示することが可能となる。また、教室活動における語彙指導や、教材の選択・作成への一助となることが期待できる。 さらに、国際ワークショップの開催や、報告書の刊行を通して、本研究の成果を発表していく。これまでの分析から、本研究において自動言語処理的観点からの研究の重要性が確認できたため、その技術を取り入れてリーダビリティ研究を行う研究者を国際ワークショップに招待し、本研究の成果を共有するとともに、さらなる研究の発展に向けた検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延により調査日程の一部を変更し、その結果旅費が当初の見込みよりも少なったため。
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