研究課題/領域番号 |
18K00771
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
杉山 香織 西南学院大学, 外国語学部, 教授 (00735970)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 語彙知識 / リーディング / 読解 / 語彙知識予測 / CEFR / 語彙頻度 |
研究実績の概要 |
最終年度であった2022年度は、これまでの研究を基に成果を報告するとともに、教育現場への還元方法を検討するすることを中心に行った。昨年度までに行なった4年間の研究結果より、単語のCEFRレベルを自動判定するFLELex(http://cental.uclouvain.be/flelex/)を用いることによって、1.750 + A1レベルの単語の正答率 (%)×0.119 + A2レベルの単語の正答率 (%)×0.131の回帰式によって、リーディングタスクのスコア(25点満点)の73.5%を予測することが可能であることを明らかにした。 使用した単語リストは、動詞の活用形や関係代名詞など、文法的な知識が必要な語句や表現を含まない。そのため、内容語の語彙知識は依然として大きな役割を担っているということを意味している。つまり、A2学習者への読解教育において、内容語の習得をまず優先すべきであるということを示唆しており、特に、高頻度単語の習得が必須であるということである。一方、中低頻度語の語彙知識は、すでに持っている語彙知識とうまく関連させることで、大幅に向上させることができる。特に、英単語の知識は、語彙知識の正答率に強く関係している。実際、第三言語習得においては、言語間転移と呼ばれる現象が、母語からだけでなく、非母語からも起こりうる。したがって、フランス語の単語と英語の単語の関連性を明示的に教えることは、学習者がフランス語の語彙知識を広げ、読解理解を促進することにつながる。そこで、英語とフランス語の同義語のリストを提示し、これらの単語が英語とフランス語でどのように形成が異なるかを体系的に教えば、学習者の語彙知識を増やす効果的な方法となることを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分析面に関しては、当初の目的であった、読解理解と語彙知識との関係を明らかにすることができた。CEFRの語彙レベル情報を変数とすることで、読解得点の予測モデルを精緻化することができた。 また、令和4年度が最終年度であったため、研究成果の公開に努めた。国際的学会での口頭発表と、論文発表を行なった。 さらに、ルーヴァンカトリック大学のThomas Francois准教授を招待し、研究会「外国語としてのフランス語テキストにおける難易度測定法」を西南学院大学で、講演会「コーパスに基づくフランス語習得研究とその応用」を青山学院大学で開催し、国内のフランス語学を専攻する学生に国際的に活躍する研究者と交流する場を提供した。
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今後の研究の推進方策 |
5年間で行なってきた研究から、読解理解を予測する変数として、単語のCEFRレベルを用いることが有効であるということを明らかにした。確かに、モデルとしてシンプルであり、その予測精度もある程度保証されているが、他の変数の影響も忘れてはならない。例えば、語彙知識の流暢性の側面は考慮していない。しかし、先行研究では、単語認識がより自動化されると、読書速度が上がり、読解力が向上することが指摘されている。つまり、読解力の能力を説明するために、流暢さを無視することはできない。 また、英単語の知識がフランス語の語彙知識に影響を与えることを明らかにしたが、参加者の英単語知識は測定していない。英語学習環境が均質であるため、学習者間に大きな個人差はないと考えられるが、今後の研究では、日本人フランス語学習者の語彙知識および英語力に注目する必要がある。 最後に、本研究では日本語母語学習者のみを対象としたが、対象言語であるフランス語と母語である日本語の距離が大きい場合に、語彙知識から読解スコアを予測できることが確認された。したがって、今後の研究では、フランス語に近い言語の学習者と、日本語のように母語が遠い学習者を比較することも必要である。距離が近いほど読解得点をより正確に予測できるのか、内容理解が十分にできるための語彙知識について母語間に差があるのか、といった研究を行うことで、この研究をローカルな文脈を超えて拡張することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はモントリオールで在外研究であったため、ヨーロッパへの移動費が日本からに比べて安価であった。
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