研究課題/領域番号 |
18K00776
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
鈴木 渉 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (60549640)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 外国語学習 / 社会性 / 認知神経科学 |
研究実績の概要 |
本研究は、コミュニケーション場面からの言語学習が、社会への適切な順応や健全な人間関係構築に関与する神経基盤から支えられ、学習者の個人差 (動機・不安)が大きく影響するという仮説のもとで、進めている。今年度は、文献研究や情報収集・整理を行い、レビュー論文を出版した。また感情情動に関する国際共同研究を推進し、fMRI実験を成功させた。1年間の研究成果をまとめると、以下のようになる。 第一に、これまで社会的相互作用や言語習得の基礎となる脳ネットワークの先行研究を概観するレビュー論文を出版した。当該論文では、(1)外国語コミュニケーション活動やコミュニケーション場面からの言語学習が社会への適切な順応や健全な人間関係構築に関与する社会認知領域を活性化すること、(2)やる気(動機)や感情処理に関与する脳領域など言語処理領域以外の神経基盤が外国語学習に関与していること、を報告した。 第二に、外国語の感情表現の処理に関与する神経基盤が、学習者の情動的文脈にさらされた程度(学習文脈における感情の強さ)によってどのように影響されるのかを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて検証する実験を行った。日本語を外国語として学習し、日本に滞在している46名の中国語母語話者が参加した。質問紙を用いて学習者が日本に滞在しながら日本語を使用する様々な情動的文脈とその程度を数値化した。日本語の情動を表す単語を用いて、語彙性判断課題を行い、その際の脳活動を測定した。分析の結果、第二言語の感情語の処理に関与する脳活動の活性化の度合いが、学習者個人の言語の使用機会や頻度によっても変化することが明らかとなった。この結果は、外国語の習得には、個人が属している社会での生活や状況などの環境要因と認知が影響し合いながら発達していくことを示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度には、社会的相互作用や言語習得の基礎となる脳ネットワークの先行研究を概観するレビュー論文を執筆し、npj Science of Learning という国際雑誌に出版した。 続いて、社会的場面からの言語学習初期のプロセスを検証したfMRI実験結果を論文に纏め、国際雑誌Brain and Languageに出版した。令和元年度後半に新型肺炎(COVID-19)の拡散という社会情勢により、実験実施が延長になった第二言語の感情処理に関与する神経基盤と社会的要因との関係を検証するfMRI実験を実施した。実施したデータの分析、平成30年に行ったfMRI実験をまとめ、国際雑誌(Journal of Neurolinguistics)へ、投稿を行った(2021年5月現在査読中)。学会活動として、アメリカ応用言語学会(American Association for Applied Linguistics, 2021.3.20-23 virtual conference)にて招待シンポジウムを行い、これまでの成果の一部を発表した。また、令和3年に行う新実験の計画を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、令和2年度に行ったfMRI実験の分析をさらに進め、国際雑誌へ論文投稿を行う。また外国語学習における社会性に関する追加実験を行う予定である。さらに、昨年度同様に、分担者や研究協力者等と言語学、心理学、教育学、脳科学等の様々な分野における当該研究課題に関する最新の研究成果等を共有するため、学会に出席したり、ビデオ会議を行ったりする予定である。最終的に、これまでの成果を総合し、日本語や英語でのレビュー論文を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画した二つのfMRI実験が、新型肺炎の拡散のため、一つのみしか実施できなかった。そのため、差額が生じたが、予算を繰り越し、令和3年度にfMRI実験を実施と論文投稿を行う予定である。
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