研究課題/領域番号 |
18K00780
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石田 知美 名古屋大学, 教養教育院, 助教 (30747449)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単語認知 / 第二言語処理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第二言語学習と母語話者の単語認知の差異を検証し、その差異が第二言語に対する接触量の差によって起こるのか否かを、語彙性判断課題実験と視線計測実験を用いて明らかにすることである。
本年度の計画として、語彙性判断課題に関しては、実験項目の選定、プログラムの作成、予備実験及び本実験を予定した。現在、単語と定型表現を実験項目に使用した2つの実験をほぼ終了し、分析に入っている。これら2つの実験は、日本人英語学習者と英語母語話者のみならずドイツ人英語学習者を対象とした。ドイツ人の英語学習者を加えることで、アルファベットを使用する母語を持つ英語学習者とアルファベットを使用しない母語を持つ英語学習者の比較が可能になり、母語の影響をより顕著に検証できるようになった。視線計測実験についてはアイトラッキングのソフトを使ってプログラムを作成し、実験項目のサンプルを使用した予備実験までを行うことを計画した。
研究の成果として、語彙性判断課題実験を終了し分析を行っている点とアイトラッキングの実験の予備実験を実施した点があげられる。単語認知の語彙性判断課題実験は、現在のところ、日本人英語学習者と英語母語話者の被験者グループに絞って比較分析を行った。その結果、アルファベットを使用しない母語を持ち、単語認知において視覚的な影響をあまり受けないとされる学習者であっても、高頻度語と低頻度語の差異は英語母語話者より大きく、頻度効果によるインパクトは大きいことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の進捗状況として、以下の2点に集約できる。 ①語彙性判断課題実験・・・当該年度に2つの語彙性判断課題を実施した。1つ目の実験は、高頻度と低頻度の単語認知の実験を終了し、分析に入っている。当初、英語母語話者と日本人英語学習者のみを実験参加者とする予定であったが、所属する名古屋大学でドイツ人英語学習者も留学生として多数在籍していたため、実験に協力を依頼した。これにより、当初の実験計画より、さらに多面的に母語の影響と語彙サイズの観点から分析できると考える。 2つ目の語彙性判断課題実験は、定型表現(高頻度の表現)と非定型表現(低頻度の表現)を実験項目に選定し、実験を実施した。定型表現は1つの塊として処理されているという先行研究を基に、定型表現と非定型表現の差異は、単語認知のように英語母語話者より日本人英語学習者の方が大きいのかを分析する。本実験は、科研の申請時には予定していない実験であり、第二言語処理についてより多くの知見を得ることができると考える。
②視線計測実験・・・・アイトラッキング実験については、予備実験を行い、実験項目の再考を行っている。現状では、サンブルプログラムを使用して予備実験を行ったのみではあるが本実験は、言語的特徴として語長を分析対象に行う。当該年度は、アイトラッキングの機材になれることで多くの時間を費やした。また、視線計測実験のデータの処理方法についても学んだ。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の意義の1つは、単に英語学習者と英語母語話者の差異を分析するだけでなく、その差異が語彙サイズ等の言語接触量に起因するものであるかどうかを明らかにすることにある。また、先行研究では頻度効果に焦点が置かれているが、本研究ではさらに発展させて、語長等の他の言語的特徴に関しても検証する予定である。そこで、今後の本研究計画は次の2点から進めていく予定である。
①上記2つの語彙性判断課題実験の分析を行い、頻度効果を観察する。現状では、日本人英語学習者と英語学習者の統計分析しか行っていないが、ドイツ人英語学習者についても比較分析を行う。頻度効果が第二言語学習者の方により大きく見られた場合、語彙サイズを分析の予測変数として代入し、統計分析を行う。語彙サイズを考慮に入れることで、頻度効果の差異が少なくなったり、小さくなれば、語彙サイズが頻度効果に起因していることを示唆する結果を得ることができると思われる。
②視線計測実験を使用して、語長を始め様々な言語的特徴について検証する。今後は、実行ファイルを作成し、本実験を行う予定である。予備実験では、単語提示による実験しか行っていないが、本実験は、日本人英語学習者と英語母語話者を実験参加者とし、文脈における単語認知に焦点を置き、より自然な読解時おける語彙の影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、長期で雇用できる実験補助者を当初予定し募集したが適切な大学院生が見つからず、短期で実験補助者を雇用するのみになってしまったためである。
今後の使用計画としては、実験補助員の人数を増やすか、実験当初に予定していなかった実験のために参加者の人数が増えると予想されるため、被験者謝金に使用する予定である。
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