本研究では、外国語・英語教育においてしばしば問題となる「外国語のリスニングにおける文章理解度に発話速度やポーズがどのように影響を及ぼすか?」という問いに対して、文レベルの理解処理への影響という心理言語学的見地からの答えを提示するために、英語動詞句省略文を用いた行動心理実験を実施した。L2学習者の文理解処理に対する、(1)発話速度の影響(2)ポーズの影響(3)異なる発話速度でのポーズの影響を明らかにすることにより、これまで結論の一致を見ることがなかった外国語リスニング全般への発話速度・ポーズの影響に新たな視点からの考察を加えて、英語リスニング指導への示唆をもたらすことを試みた。 令和5年度は実験環境・プラットフォームの整備と実験の実施を行うことができた。感染症にかかわる世界情勢を受けて大幅な方針転換が必要となった実験環境については、研究協力者の支援のもと、PennController for IBEXというインターネットベースの実験プラットフォームの活用に向けて共同で取り組み、当初の計画通り発話速度2条件・ポーズの長さ2条件によるCross-modal priming taskを実施することができた。英語を専攻とする学生を対象として動詞句省略文を用いた本実験の結果、発話速度が遅く、節間のポーズを長くした条件の動詞句省略部分において、先行する節の動詞句の再活性化が促進されたことを示唆する結果が示された。このことは外国語としてのリスニングにおいて発話速度・ポーズのコントロールが語彙・文法レベルでの理解促進に貢献する可能性を示している。
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