研究課題/領域番号 |
18K00792
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
小田 眞幸 玉川大学, 文学部, 教授 (60224242)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 外国語教育政策 / ネイティブ・スピーカー / マスメディア / ディスコース研究 / 社会的実践 / プログラムマネジメント |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、令和2年度は各大学がその対応に追われ、大学教育そのものに大きな変化が見られた。それにともない、ネットワークを利用したオンライン授業の導入も急速に進められた。それにより、理想の大学英語教育プログラムの定義も大きく変化しつつある。
本研究では初年度の平成30年度より、まず大学英語教育が社会でどのように受け取られているかという点について、特にマスメディアによってつくられる様々な言説と、それらが学習者の外国語(英語)学習観に与えている影響、そしてそれらと様々な政策との関係について、批判的ディスコース分析(CDA)の手法を用いながら分析してきた。令和2年度は、英語教育について導入が延期となった「大学入学共通テストへの英語民間試験導入」を取り上げ、新聞記事や関係省庁、自治体の公式発表の分析を行った。その過程において、政策策定者が政策の正当性をどのように説明しているかという点について、van Leeuwen (2007)のLegitimation(合法化)の枠組みを当てはめると同時に、研究代表者の以前の科研プロジェクトの成果の1つである英語教育におけるネイティブスピーカーとマスメディアの関係(Oda 2017)と関連づけながら、根拠が十分でない因果関係がマスメディアにより、英語教育についての「言説」として拡がっていることが確認できた。そしてそれらを情報源とする一般の学習者がこういった言説を「当たり前のこと」「共通知識」として疑いなく受け入れ、自らの言語観・学習観がいつの間にか形成され、それをもとに行動をすることがSocial Practices (社会的実践)につながっていることがわかった。本年度はさらに研究領域としての英語教育研究、応用言語学を通時的に概観し、研究領域の変化が大学英語教育プログラムおよび教材に与える影響について論文で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通りに研究が遂行できているかということを考えれば、遅れているという評価になる。しかし本研究の目的である「ネイティブスピーカー主義」後の大学英語教育プログラムの開発に向けて、3年間でどれだけの知見が蓄積されたかという点においては、ほぼ当初の通りである。前年度と同様、新型コロナウイルスの感染拡大が終息していないため、大学の授業のオンライン化、そして移動の制限が続いており、当初の計画にあった、インタビューやプログラム見学の実施がほぼ全面的に不可能であった。インタビューについてはオンライン切り替えることも可能であると思っていたが、もともと大学の英語教員や管理者が対象であったため、それぞれの大学での業務対応でいっぱいになり、協力を得ることが困難だった。一方新聞記事等のデータは継続的に収集できたため、先行研究を参考にしながら、それらの分析を行うことにより、将来の英語教育プログラムの設計に向けて、現段階でどのようなことが議論されているかについてより詳しく検証することができた。
当初の計画では英語教育関係者へのインタビューと、マスメディア(主として新聞報道)をもとに事例分析と併せて、英語教育における「ネイティブスピーカー」の概念の位置づけとが英語教育プログラムの設計に与える影響を批判的ディスコース分析(CDA)の手法を持ちて分析し、将来の英語教育プログラム開発に向けて鍵となる領域を抽出したうえで、具体的な提案をするという流れで研究を進める予定であった。しかし、インタビューが遅れているため、マスメディアにおける英語教育の扱いの事例収集および分析を先行させた結果、「ネイティブスピーカー」の概念に関わる議論が、大学入試、教職課程コアカリキュラム、小学校における外国語(英語)教科化など、最近英語教育に関して話題になるどのことにも大きく影響を与えていることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
インタビューやプログラムの実施調査については社会情勢、特に今後の新型コロナウイルスの感染状況等を見ながら、オンラインでの実施も含めて検討するが、令和3年度が最終年度になるため、当初計画した規模で実施することは困難であると思われる。したがって「英語教育プログラムの開発」への提案を予定通りに実施することを最優先にすべく、令和2年度と同様、マスメディアにおける英語教育の扱いの事例収集、分析も継続して行う。特に新型コロナウイルス感染拡大という当初は想定していなかった状況の中で、大学教育そして英語を含む外国語教育そのものの在り方が変わりつつあることから、特にネットワークを利用した遠隔授業も想定しながら、ポストネイティブスピーカー主義とともにポストコロナ時代の大学英語教育プログラムのモデルを提示することを目指したい。
具体的には、当初の計画に加え、令和2年以降の大学における遠隔授業についての議論について批判的ディスコース分析(CDA)、そして可能な限りインタビュー等を行うことにより、マスメディアによる報道、関連の政策、そして学習者の反応の関係を明らかにすることにより、「ネイティブスピーカー主義後」に「コロナ後」という観点も加えながら将来の大学英語教育に対して提案を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大のため、実施調査(インタビュー)および学会発表がほとんどキャンセルとなり、一部はオンラインで代替するためにその環境整備として物品費、そしてオンラインによる国際学会参加費等として使用した。次年度も予断が許されない状況であり、旅費の使用は限定されると思われるが、延期されたりオンラインに切り替えられた国際学会も多いので、環境整備および学会参加費として使用する予定である。
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