戦前の中国語教育活動の実態と、それが戦後の日本の中国語教育においてどのように展開したのかということを明らかにしようとする本研究では、その事例として戦前の東亜同文書院と戦後の愛知大学における中国語教育について専ら調査研究を進めてきた。特に両校で使用された中国語教科書『華語萃編』初集の内容および改訂の分析と元東亜同文書院教員であった鈴木擇郎愛知大学教授について中国語を学習した愛知大学卒業生への聞き取り調査を中心に活動を行ってきたが、本年度はそうしたこれまでの成果をまとめるものとして口頭発表「愛知大学版『華語萃編』初集について」(愛知大学東亜同文書院大学記念センター設立30周年記念講演会「愛知大学と東亜同文書院大学編纂中国語教科書『華語萃編』初集」2023年7月29日)に行った。これは戦前に東亜同文書院で編纂された中国語教科書『華語萃編』初集を戦後の愛知大学で使用していくのに際して、中華人民共和国が成立したことによる中国社会の変化や簡化字、ピンインといった中国語をめぐる変化、また国交などについて問題を抱えていた日中関係、さらに戦前の旧制大学から戦後の新制大学へと移行したことによる日本の高等教育の変化に対応するためにさまざまな改訂を施していったことを明らかにしようとするものである。これによって戦前の東亜同文書院では日本人が中国社会に入って中国人とともに暮らしていくことを目的とする中国語教育が行われていたのに対して、戦後に元東亜同文書院の教員を中心に進められた愛知大学の中国語教育では中国でのビジネスや旅行、留学といった一過性のコミュニケーションを行うことを重視したものへと変化していたことが明らかとなった。
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