研究課題/領域番号 |
18K00804
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
山中 司 立命館大学, 生命科学部, 教授 (30524467)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 利他 / 大学英語教育 / 教え合い / コミュニケーション / プラグマティズム / 互酬性 / 言語哲学 / 稲盛経営哲学 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトは、PBL(Project-based Learning)型の英語教育のためのコミュニケーション・サイト(Hassin Platform)の理論構築とその実装を通して、学習者の実践の過程で見られる「利他」の精神が、教育的ダイナモとして学びを促進させることを言語哲学的に考察し、同時にその活用につき現場レベルの知識として広く国内外に発信することを目的とするものであった。これまで言語哲学等で議論されてきたプラグマティズムを理論的支柱とし、D. DavidsonやRortyらが論じてきた言語コミュニケーションに対する考察を、他人のために尽くし捧げる「利他」の視点から新たに読み解く。言語の独我論がまかり通るはずの言語コミュニケーションにおいて、なぜ私たちは「分かり合える」のか、その理由の一端が「利他」精神に見出せ、理論上新規の貢献ができたものと考えている。
本研究は、日本の学校教育における一般的な学習のあり方を3つの段階に分け、「利他的な学び」こそが「うまくいく(機能する)」教育の実現に近いことを理論、実践の双方から実証を試みた。仮定する学習のあり方の3段階とは、(1)セルフ・スタディ、(2)「教え合い」学習、(3)「利他的」学習である。この着想はRichard Rortyのプラグマティズムを基軸としており、「利己的な愛」を(1)の段階、「隣人愛」を(2)の段階、「自己犠牲的な愛」を(3)の段階と措定し、教育論として独自に敷衍したものである。また(1)と(2)は既に一般の教育システムで多く取り入れられている手法である。利他的な学びを学習に組み込むことは、申請者らによる過去の試行実践や、Rortyらのネオ・プラグマティズムに基づく理論的示唆からも、学習者に「学びの実感」を与え、学習効果を高める上で頗る効果的な可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下に述べる4つのプロジェクトから成る。これまでにその其々に取り組み、一定の成果を上げてきた。短く本文にて報告を行う。 プロジェクト1: 教育的ダイナモとしての「利他」精神の言語哲学的考察とその還元: 大学英語教育を例に、プロジェクト2: Assessing changes in mood state in college students following short-term study abroad、プロジェクト3: 入学前英語教育における感謝日記の効果: 利他を感謝の尺度で量化・実証の取り組み、プロジェクト4: 教育コンテンツとしての「利他哲学」の普及: JMOOCコンテンツ 『gacco「SDGs表現論: プロジェクト・プラグマティズム・ジブンゴト」』 Week 3における言及
本年度特に集中して取り組んだプロジェクト3と4では、3について、立命館大学生命科学部に推薦で合格した高校生に対し9週間、「感謝日記」を書かせるグループと「良かったこと日記」を書かせるグループを作成し、各種心理指標を毎週計測した世界で一番長い「感謝日記」実験である。種々分析をした結果、「感謝日記」はパフォーマンス、とりわけモチベーションに影響を与える結果が実証された。本成果については論文として発表するべく現在鋭意作成しているところである。
4については、研究代表者が担当・開発に携わるJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)コンテンツ 『gacco「SDGs表現論: プロジェクト・プラグマティズム・ジブンゴト」』Week 3において、プロジェクト論の講義と関連して稲盛利他哲学について言及した。これは教育論の講義として、利他の哲学を教材として配信するものである。当該コンテンツは2020年2月より、オンライン上で無料公開されている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、立命館大学生命科学部に推薦で合格した高校生に対し9週間、「感謝日記」を書かせるグループと「ポジティブ日記」を書かせるグループを作成し、各種心理指標を毎週計測した世界で一番長い「感謝日記」実験である。種々分析をした結果、「感謝日記」はとりわけ学習モチベーションに影響を与えることを実証できる可能性があり、本成果については第一報を論文として発表し、2020年度中に再実験を行い、より精緻化した形で検証作業を実施し、研究を深化させる。
本研究の意義は次の通りである。最終的な学業成果につながる、つながらないに関わらず、学習者が自律性を持ったり、モチベーションが高い状態で学ぶことは、教員にとっても教える上で有利でもあり、理想的な環境であるとさえ言える。というのも、学業的なアウトプットにおいては、第一に、基礎的/基本的学力という要素が左右し、たとえどれだけ感謝感情や性格特性が働こうとも、それだけで高いacademic performanceがはかれるわけではない。つまり、人によっては、直接的なacademic outputにはつながらない生徒も少なくない(cf. Lounsbury et al., 2009)。またGPA等の成績やテストスコアが必ずしも学業の成功を示す唯一の物差しではない(Grigorenko et al., 2009)。しかし、話をacademic motivationとするならば別である。academic outputと、academic motivationは有意に関連することは言うまでもない(Ryan & Deci, 2000)が、同一ではない。感謝感情によって、学業成績は保証できないとしても、academic motivationの維持や深化が確実にはかれるのだとしたら、これは戦略的な学習方法論として極めて有効な視座となるだろう。
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