研究課題/領域番号 |
18K00844
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
田口 悦男 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (60255974)
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研究分担者 |
戸田 博人 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (80644393)
川口 淑子 帝京大学, 理工学部, 准教授 (50410775)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | reading fluency / repeated reading / extensive reading / L2 reading / reading rate / reading comprehension / scaffolding / assisted reading |
研究実績の概要 |
第二言語による読みにおける近年の研究成果の一つは、精読に代わり、母語による読み能力の発達パターンを模した、自然な読み能力の向上を促す多読の重要性が認識され、普及してきたことである(Day, 2015; Nakanishi, 2015)。精読のみでは第二言語に対する知識の獲得が重視されるため、スピードを持って、正確に読むスキル習得にはつながり難く、多読では、語彙や文法項目を易しめに制御したL2テキストをたくさん理解して読むことでそれを実現する。 一方、多読には、どのようにして読み能力のレベルを高めるかという問題が内在する。易しいテキストを読み続けることでテキストの情報処理能力は高まるが、どのような発達段階を経て母語話者に近いレベルに到達するのかについては、具体的な指針は提示されていない。 L2学習者が、どのようにしてgraded readersから母語話者レベルのテキストを読む能力を身に着けていくのか、その発達段階を明らかにすることが求められている。その可能性のカギを握るのが、多読に近い自然な読みを模しながら、L2学習者に必要で適切な支援(足場掛け)を提供する多読とRRを融合させたAssisted Reading (AR) (Taguchi et al., 2016)である。 本研究の目的は、読みの流暢さの発達を促すAssisted Reading(AR)(Taguchi et al., 2016)の効果検証を行うことである。研究代表者は、オンライン型Repeated Reading (RR)(Web R2)をIT企業の支援を受けて開発し、一般公開の準備を進めている。Web R2のコンテンツ拡充の準備は整い、より多くのL2学習者にコンテンツを届けるためのWeb R2の改修をするべく、デザイン等の最終的な検討をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
L2学習者にとってL2の習得を促すカギとなるのは良質なインプットを提供することである。研究代表者が開発したWeb R2を活用したAssisted Readingでは、L2学習者が母語への翻訳や過度の語彙・文法学習を偏重することなく、多読と同じように読みのスキル習得を促し、L2学習者に良質なインプットを提供できる。 本プロジェクトでは、読みの流暢さを長年研究し、優れた成果を上げている2人のアメリカ人研究者の協力を得ている。研究代表者と長年研究を続けているテキサス工科大学応用言語学科のGreta Gorsuch教授、そして、第一言語と第二言語の読みの流暢さの研究に長年携わり、読みと第二言語習得との関係について研究を続けているNational Louis大学のKristin Lems教授である。 Web R2のコンテンツ拡充のため、国際的に著名なPaul Nation NZビクトリア大学名誉教授が作成したSpeed Reading教材を、本人の許諾を得て、本プロジェクトで使用する。また、Web R2はテキストと音声の2つのモードでL2学習者に良質なインプットを提供するために、テキストのモデル朗読音声データをアメリカ人母語話者でプロのナレーターに依頼し、作成済みである。 本プロジェクトでは、コンテンツの拡充と同時に、より多くのL2学習者に使用してもらえるように、プログラムの改修を図るべく、改修デザインを確定した。2020年度に完成させて、プロジェクトHPを通して、国内外の研究者や学習者が無料でWeb R2を使用できるように一般公開をするべく準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
Web R2に搭載の準備を進めている拡充のためのコンテンツについては、一つは上述したようにPaul Nation NZ国立ビクトリア大学名誉教授とその同僚が作成した” Asian and Pacific Speed Readings for ESL Learners” (Quinn, Nation, and Millett, 2007)である。もう一つは、研究代表者の共同研究者であり、本プロジェクトの研究協力者であるテキサス工科大学グレタ・ゴーサッチ教授が作成するストーリー、及びそれに付随するテキスト音声である。 ウェブ型RRであるWeb R2を活用しつつ、市販の多読テキストを併用し、Assisted Reading(AR)の効果検証を行う予定である。 研究代表者は、本プロジェクトを遂行していく経緯の中で、Web R2を活用して来たが、RRには読みの回数の設定やコンテンツ拡充が複雑であることなどの問題が生じたため、それを解決し、多様なリーディングレベルのL2学習者を想定した新たなウェブ型リーディングシステムの構築を検討する必要が生まれた。 本プロジェクトに技術支援を提供している企業の専門家に相談をしたところ、現在のシステムをコピーし、改修することで安価に新しいシステムの開発が可能であることがわかったため、システムの改修とコンテンツ拡充を同時に実現することにした。これにより、多様な運用レベルと多様な興味を持つ学習者に対応できるシステムとなる。 当初の研究計画に遅れが生じたが、研究や教室内外での活用への利便性を高めるためにシステムの改良とコンテンツの拡充を行い、その後、改良・拡充したプログラムを試行運用し、バグ等を修正した上で、研究データの収集・分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
Web R2は繰り返し読み(Repeated Reading: RR)をすべてオンラインで実施でき、教員や研究者にとって利便性の高いシステムである。一方で、研究代表者のこれまでの使用経験から、学習者にとっては、1つのセッションにおける読みの回数が固定され、テキストの黙読時に使用する音声モデルについて、その使用が常時求められたり、また、音声モデルの使用回数が固定されていたりするなど、柔軟性に欠ける点があった。つまり、学習者は自身のニーズやレベルに応じてメニューの編集ができないことが問題点であった。 近年のリーディング指導は、学習者の自律性の発達を促す方向にシフトしており、多読指導にもそれが反映されて来ている。より多様なリーディング能力を持つL2学習者のニーズに対応できるシステムを、Web R2をコピーし、改修することで実現することになった。そのデザインの検討と改善に時間を要したが、既にデザインは確定し、次年度に改修を実施する予定である。
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