研究課題/領域番号 |
18K00848
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
川崎 貴子 法政大学, 文学部, 教授 (90308114)
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研究分担者 |
田中 邦佳 法政大学, その他部局等, 講師 (70597161)
Matthews John 中央大学, 文学部, 教授 (80436906)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Phonetic Drift / 音韻論 / 第二言語習得 / 音声学 |
研究実績の概要 |
第二言語音韻習得において、母語の音韻構造が L2 の知覚・生成に影響することは広く知られている。今年度は、母語以外の言語を学習することが、母語の音声・音韻文法にどのような影響を与えるのかについて、音声知覚、生成の両方の面から研究を行った。 L2習得がL1発話に影響を与えることは、近年のL2研究によって示されている。 たとえば、Flege (1987), Guion (2003), Chang (2010) 他は、L2 環境にて学習した場合、 L1 発話に音響的な影響が見られたと報告している。しかし、多くの研究が、発話に見られる音響的な影響を調査したものであり、母音、または破裂音のVOTに見られる影響を調査したものであった。今年度の研究では、これまで研究されていない、無声摩擦音の知覚、および生成を調査の対象とし、研究を行った。 まず、知覚研究として、L2習得により、学習者の知覚スペースでの音素間の距離の近さに変化が見られるのか、音声知覚マップがL2習得により再構築されるのか調査した。調査対象として、 1)英語圏滞在経験の無い学習者、2)6ヶ月未満の英語圏居住の学習者、3)日英早期バイリンガル、の3つのグループを設けた。これらの参加者群に、摩擦音にノイズを重ねた刺激音を被験者に聞かせ、無声摩擦音の混同傾向がグループ毎に異なるのかを調査し、知覚的距離がL2習得により変化するのかを調査した。また、発話実験として、上記の3群による日本語、および英語の摩擦音の発話を録音し、音響分析を行った。 知覚混同実験においても、発話実験においても、L2習得によるL1音韻文法への影響が示唆された。知覚実験の結果は、JCSS2019にて発表を行い、発話実験はNew Sound 2019 にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第二言語習得が母語の音韻文法にどのように影響するかについての研究は、順調に進んできた。今後、更に手法を変え、研究を続ける予定である。一方、中国語母語話者をターゲットとした、日本語習得、およびプリファレンス効果についての研究は、中断している状態である。既に研究のパイロット実験を終えていたが、コロナウイルス蔓延により、中国語母語話者を対象とした実験を行うことが困難となった。よって、1月以降の実験が進まず、予定していたよりも進行が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は中国語母語話者によるL2日本語習得において、日本語のアクセント習得はどのように進むのか、特に無意味語に割り当てられるアクセントが日本語母語話者によるものとどう違うのかを比較する予定である。また、日本語を学ぶことにうより、母語である中国語のプロソディーにどのような影響が出るのかを調査する予定である。 また、これまで進めてきた摩擦音の研究を更に進め、SA経験者とそうでない学習者との間の摩擦音の音響的違いを更に分析し、論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に行った実験では、半数で被験者への謝礼の必要の無い、学内での実験であった。また、中国語母語話者を被験者とした実験が先延ばしとなったため、支出が少なくなった。このことが人件費が予定よりも少額となった主な理由である。2020年に中国語母語話をターゲットとした実験が行われるようになった場合、持ち越した研究費によって実験を行いたいと考えている。また、現在ではまだコロナウイルスの影響が大きく、対面での録音実験などがいつ再開できるのか、予定が立たない。よって、Webサーバーを経由してのInquisitを使用した知覚実験を構築し, InquisitのWeb版のライセンスを購入し、実験を進めたいと考えている。
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