本年度は昨年に引き続き、非ネイティブスピーカーとネイティブスピーカーの2つのグループにおいて、母語の音に類似した新しい分節音の習得に関する調査を行った。英語と日本語は共に無声のalveolarとpost-alveolar の摩擦音を含むが、alveolarは同一であるのに対し、post-alveolar は調音位置が異なっている。英語にはpalato-alveolar があるのに対し、日本語にはalveola-palatalが含まれる。昨年、一昨年より継続している我々の研究では、中級英語学習者、海外留学経験のある日英バイリンガル、および対照群としての英語母語話者からなる三つのグループによる英語と日本語の発音を録音し、発話対象の言語ごとに異なるカテゴリーを形成しているのかどうか調査した。日本語母語話者は、英語環境での十分なインプットを得ることにより、L1の音と類似する音に対して独立したL2の分節カテゴリーを発達させることができることを示唆する結果が得られた。 さらに、2020-2021には、日本語のL1話者と中国語のL1話者で、英語子音の知覚混同実験を行うことにより、L1がL2の知覚マップにどう影響するのかを調査した。中国語の摩擦音は日本語よりも多く、中国語話者はより詳細な摩擦音の弁別が可能ではないかと考えた。日本語話者と中国語話者の混同傾向を比べた結果、母語の摩擦音がL2の知覚混同に影響しており、中国語における摩擦音の配置パターンが英語での知覚の精緻さに繋がっていることがわかった。
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