本研究の目的は第二言語習得研究の成果をもとに、多読が持つ「読解力」、「語彙力と読みの速さ」、「学習意欲」の向上への効果を検証することにある。具体的には、(ア)読解力向上に効果を発揮する読書量、(イ)高頻度語の視認語としての習得と読みの速さの向上、(ウ)向上する動機づけの種類という3つの点に関し、多読の効果を検証した。(ア)読解力向上に関しては、多読は5万語以上の読書量で従来型の指導方法と同等程度の効果が得られること、また学習時間が読解力向上に大きな影響を持つことが示唆された。(イ)高頻度語の視認語としての習得と読みの速さについては、多読と精読を比較調査し、いずれも多読がより効果的かつ効率的であること、また読みの速度は読む語数が多いほど、向上することが示唆された。(ウ)動機づけ向上については、まず、高動機群(英語専攻)と低動機群(非英語専攻)の動機づけの変化を自己決定理論の枠組みで考察した。アンケート調査から、高動機群は内発的動機付けの他に、同一視的調整、外的調整が有意に高まり、低動機群は同一視的調整と取入れ的調整が有意に高まることが示唆された。しかし、感染症による授業形態変更の影響が除外できなかったため、研究期間を1年延長し、最終年度は低動機群のみを対象に同様の調査を行った。4つの動機づけ制御焦点(内発的、同一視的、取入れ的、外発的)と3つの心理的欲求(自律性、有能性、関係性)の変化と相関を検証した結果、多読は同一視的調整と内発的動機付けを向上させることが示唆された。一連の研究結果は外国語として英語を学ぶ教室環境で効果的に多読プログラムを通じて英語力向上を図るモデルになると考えられる。複数の国際誌や国内外の学会で発表を行ったため、国内外で外国語を指導する教員や教育機関に示唆を与えられるものと考えられる。
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