研究課題/領域番号 |
18K00911
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
工藤 貴正 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (80205096)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 雷震『我的学生時代』 / 殷海光『中国文化的展望』 / 森口繁治『近世民主政治論』 / 毛沢東『延安文芸講話』 |
研究実績の概要 |
2019年度は、雷震に関わる二つの国際シンポジウムに参加し発表するための研究を中心に行った。 一つは、2019年9月27-28日に台湾大学文学院講演庁で行われた「殷海光先生百歳紀念国際研討会」では、「殷海光的共産主義理解与毛沢東『延安文芸講話』」と題する発表を行った。本報告では、雷震の精神的、思想的盟友・殷海光の著書『中国文化的展望』と翻訳書『共産国際概観』の言説を援用しながら、毛沢東『延安文芸講話』が、魯迅「国民性改造」論に対する思想共鳴とジグダーノフ演説(1934年)の「社会主義リアリズム」論における作家が「人間の魂の技師」となるという技法を利用し、それに毛沢東独自の「民族形式」を加えた、中国独自のボルシェビズム政治による知識人統制法の基礎を作ったことを論じた。 もう一つは、私が研究代表として2019年11月9-10日に愛知県立大学で開催した「東アジアの民主主義を台湾から考えるー雷震日本留学(高1年・八高3年・京都帝大3年半)100年・逝去40周年記念国際講演会」と同時開催の「雷震・国際シンポジウム」において、「雷震回想録『我的学生時代』と大正主義の時代―〈ノスタルジア〉・〈文化伝統〉・〈濡化〉の視点から」と題する発表を行った。本報告では、『雷震全集』第9巻、第10巻の回想録『我的学生時代』の記述と初載が、雷震が逮捕されて『自由中国』が第23巻第5期を以て停刊に追い込まれた1960年9月1日直前の1958年1月から1959年3月から6月までの期間に集中し、その記述の内容が、蒋介石の中国国民党と統治の「悪い現在」と比べ、40年以前の留学先の日本の社会システムの方が「良き過去」であったとして描く〈ノスタルジア〉手法と、日本及び日本人の悪習も指摘する回想録の手法により、雷震は外省籍知識人の立場から台湾籍知識人との連帯を可能にしていた人物であったことを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題「台湾民主の銅像・雷震の思想歴程研究―日本留学期・中国の役人期・『自由中国』期」において、2018-2020年度の1年目は「日本留学期」を中心に、2年目は雷震が『我的学生時代』を執筆した『自由中国』に投稿した時期、すなわち『自由中国』期を中心に研究を進め、学術論文の1篇は台湾のレフリー付きの雑誌で採択され、1篇は国際学会の報告書に掲載されている。さらに、雷震と共に『自由中国』に集った台湾における自由・人権・民主主義の確立に貢献した殷海光の「中国文化伝統の変遷」という文化思想的視点を通過することにより、現代中国においては「トリプルスタンダードの文化伝統規準」があることを突止めた。 また、前年度の論文「雷震与京都帝国大学恩師森口繁治教授―日本留学体験之中所形成的初期民主与憲政思想」(『東亜観念史集刊』15期、台湾・国立政治大学出版、2018.12、307~322頁)に加筆・修正を加え、「雷震と京都帝大教授・森口繁治―日本留学体験における初期民主・憲政思想の形成」(『愛知県立大学外国語学部紀要』第52号(地域・国際編) 2020.3、119~141頁)を執筆し、雷震が森口繁治の著書『近世民主政治論』の影響を受け、「独立自由な人格者」を形成するには、「党化教育」は弊害であり、民主政治の実現には森口が重視した「比例代表制」の方式が適切だとする意見に共感を示していることを論じた。 以上の理由により、現在までは順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、以前に資料の一部を上海図書館などで収集し、その研究資料の所在の確認を済ませていた「教育改革」「文字改革」「詩作の試み」に当たっていた「中国大陸における国民党の役人期」における雷震研究を推進することにしている。ここで、2020年3月と9月に上海図書館や北京図書館に資料収集を予定していた。しかし、現在世界中に蔓延する新型コロナウイルスの関係で、資料収集予定地を変更し、代替地として台湾の中央研究院や国史館などにおいて、中華民国期の地方紙における雷震の投降文章の収集を行わざるを得ない。 また、仮に上述した資料が収集出来ない場合は、2019年度に引き続き雷震と共に中華民国思想史に大きな影響を与えた殷海光の『中国文化的展望』研究と、雷震・殷海光とは反対に思想転向し蒋介石政権という強権勢力側に立って弾圧を加える立場に立った蔡孝乾(彼の代表的著作『江西蘇区・紅軍西竄回想』「中共研究」雑誌社、1970.12初版」)などの雷震関係周辺資料を使用し、さらには、蔡孝乾が1925年に始まる「台湾新文化運動」において主要人物の一人であったという事実を踏まえて、台湾における中国の「五四文化運動」や「新文化運動」からの影響が果たしてどのくらいのものであったかを再評価を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用金額に残った2,109円という金額は、ほほ予算を使い切った金額に匹敵すると考えるが、本年度は配分予算を正確にすべてを執行する。
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