本研究課題は、冷戦期のイギリス文化がソ連・東欧諸国に対してどのような意図をもって発信し、いかなる効果をもたらしたのか、実証研究と理論研究の両側面から解明しようというものであった。しかし、2020年に始まったコロナ禍により、英国公文書館における史料研究に支障が生じたため、イギリス文化の一例としてジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』の政治的利用と普及について研究することに時間を割いた。その結果、本作品がイギリス政府によるプロパガンダ戦略の一端として東側陣営に首尾よく渡っただけでなく、地下組織で積極的に受容・再生産され、体制打破のための指南書として機能していたらしい兆候を突き止めることができた。
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