研究課題/領域番号 |
18K00917
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研究機関 | 同朋大学 |
研究代表者 |
藤井 由紀子 同朋大学, 仏教文化研究所, 所員 (40746806)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日中交渉史 / 近代仏教史 / 学史研究 / 日中戦争 / 学術調査 / 中国開教 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究実績は成果に乏しい。「小川貫弌資料」の研究視角は、日中戦争下の中国で進められた仏教史を中心とする歴史文化史関係の学術調査と、宣撫工作としての中国開教事業、この2つの要素が交差する場での人的交流の実態を、資料解析と中国現地調査によって具体的に跡づけ、戦争と学問発展との関係を考察する材料を提供することにあるが、新型コロナウイルスの影響で、中国現地調査が計画通りに行えず、国内に残存し、かつ、コロナ下でもアクセス可能な資料、もしくは、デジタル公開されている諸資料との比較研究に調査研究が限定された結果、本来の研究企図とは少しかけ離れたものとならざるをえなかった。具体的には、アジア歴史資料センター等で公開されている日中戦争関係のデジタル資料に、開教史の関係者間でPDF化されている開教史資料の利用を加えて、中国のほか、朝鮮・台湾も含めた、日中戦争期のアジア全体の開教を見渡し、そうした巨視的な視点から、資料作成者である小川貫弌の足跡と、開教史上の諸要素との共通性を抽出、開教史の流れの中に位置づけることを試みた。 また、資料約1500点の画像データベース構築のため、初年度から継続して資料のデジタル化を進めてきたが、2020年度初頭の緊急事態宣言の発令に加えて、学内にウィルス陽性者が出たことで、資料を保管している大学での作業が困難となり、資料総数の65%の撮影を終えた、という状況にある。 さらに、先年度、山西省の中国人現地研究者と構築した共同調査体制を維持するため、調査報告の作成を通じて調査時に得たコンセンサスを確認し、連携体制の維持に努めた。なお、いまだ調査が実施できていない南京関係の資料については、「戦時下の中国仏教研究Ⅲ-南京仏学院と「小川貫弌資料」「亀谷法城資料」」と題した資料展示を開催し、研究成果の公表の場とする試みであったが、コロナ禍のため、中止となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大、および、2020年4月の新型コロナウィルスによる緊急事態宣言発令は、調査研究の進捗に重大で深刻な影響を与えた。具体的には以下の通り。 中国現地調査を研究調査活動の主軸とした交付申請書の内容に基づいて、初年度より資料約1500点を時系列で整理し、中国現地調査を効率的に行うための資料解析と文献調査とを進め、翌2019年度には山西省と南京の2地域における現地調査を計画、実際に実施された初回の山西省における現地調査では、山西省民俗博物館を拠点として、中国人現地研究者と資料を共有し、より踏み込んだ形で中国現地調査を継続させるべく調査協力体制を構築したが、中国武漢が発生源と予測される新型コロナウイルスが流行をみせはじめ、これ以後、数度にわたって行うはずであった中国での現地調査は実施することが不可能となった。 そして、本来の最終年度にあたる2020年度、年度明けから中国人研究者との密なる連絡のもと、中国現地調査計画を練り直し、そのための準備を進めて調査実現への機会を待ったが、4月の緊急事態宣言発令で国内移動にも制限がかかる一方、年度後半になっても、地元国際空港の閉鎖、高額な航空料金、渡航時のPCR検査の義務づけ、中国入国後における2週間のホテル滞在措置(PCR検査代や滞在費用は自費負担)など、中国渡航自体が極めて困難で、年度内に中国現地調査を再開させることが叶わなかった。 また、国内の比較資料発掘の試みも、北海道など、新資料の所蔵先がコロナウイルスの感染状況が早くから懸念された地域に立地しており、調査先から調査実施の許諾が得られないといった理由から中止が相次いでいて、新たな資料発掘も進んでいない。さらに、画像データベース構築作業も、作業拠点となる大学内でウイルスの陽性者が重ねて出たことで立ち入りが禁止となるなど、効率的な作業が行えていない。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの影響と、これにともなう度重なる緊急事態宣言の発令。こうした状況下にあって、研究プロジェクトは大きな方向転換を迫られている状況にある。3年間の研究計画のちょうど折り返し時点となる2019年度の後半期、それまでの基礎調査の成果に基づき、中国や国内各所での現地調査をいよいよ実行に移していくという段階になって、ウイルスの流行により、中国はもとより、国内での調査もほとんど望めなくなった。 中国での現地調査については、2019年10月、山西省太原市での初回の中国現地調査において、山西省民俗博物館所属の中国人現地研究者を介して、日中共同して「小川貫弌資料」活用のための調査協力体制の構築に成功しており、この協力体制を活かした中国現地調査をなんとか実現したいという考えから、1年の研究延長申請をしているが、2021年4月に3度目の緊急事態宣言が発令されるなど、中国での調査活動が再開できる見通しは正直、立っていない。 新型コロナウイルスによって世界各地で分断化が進むなか、せっかく築かれたこの協同関係を学術的にどう育てていくか。現在、代替案として検討しているのは、山西省民俗博物館に一部、現地調査を委託するという方向性である。日中戦争だけでなく、国共内戦、文化大革命など、大きな混乱を幾度も経てきた中国国内には、近代史関係の資料はほとんど残っていない。そのため、中国人研究者の研究視座には、戦争関係の資料としての範疇を越え、「小川貫弌資料」を中国近代史の考察資料として評価しようとする傾向があり、それを活かして現地調査の一部を委託することを模索中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、海外での現地調査が計画の40%程度しか行えておらず、旅費を中心に、調査に必要となる物品購入など、執行できていない予算が多分に出たため、次年度使用額が生じている。また、研究成果を発表する資料展示や、それに付随するシンポジウム開催も、研究計画の遅れとコロナウイルスの影響で見送られており、そのための諸経費も執行できていない。 研究期間を延長し、ウイルスの状況回復を待って、調査計画を再開させる見通しで、そのための海外調査を含めた調査にかかる費用を温存しているが、海外調査を実行できない場合、調査連携体制を保持している中国人研究者に委託し、中国で行う現地調査を代替で実行してもらうことも視野に入れており、そのための謝金や必要経費を旅費から執行することを考えている。
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