研究課題/領域番号 |
18K00917
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研究機関 | 同朋大学 |
研究代表者 |
藤井 由紀子 同朋大学, 仏教文化研究所, 所員 (40746806)
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研究分担者 |
川口 淳 同朋大学, 仏教文化研究所, 非常勤職員 (70802891)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日中交渉史 / 近代仏教史 / 学史研究 / 日中戦争 / 学術調査 / 中国開教 |
研究実績の概要 |
2021年度は大きく活動内容の転換を図った。当初の計画では、日中戦争下に作成・蒐集された「小川貫弌資料」の分析に、中国での実地調査を加えることで、戦争下の学術調査の意義と人的交流の実態について、動態的、かつ、学術的に明らかにしていくことを目的としたが、2019年冬からの新型コロナウイルス流行の影響をうけて、中国調査が中断を余儀なくされたからである。そこで、2021年度は、研究の最終段階での着手予定としていた画像データベースを、一部資料に限定した形で立ち上げ、公開に踏み切り、これを中核に本研究の方向性を見直した。具体的には、初年度以降、重要度の高い資料から順次デジタル撮影を進めていた、撮影終了分の資料約350点について、調査データを整理して資料情報を抽出し、その上で公開方法を選択した(下記URL参照)。 なお、本研究の目的は、日中戦争下の学術調査に携わった人物の残した資料類に着目し、単なる遺品として見過ごされてきたそれらに対し、新たに史料的価値を見出し、日中交渉史考察のための新ジャンルの資料群を形成していくことにあり、研究の根幹となる「小川貫弌資料」の分析研究だけでなく、これに類する資料の発掘もその視座には含まれている。実際、これまでの調査研究の過程で、いくつかの同種資料の存在が明らかになってきており、中国での現地調査再開が難しい現状、画像データベースとして「小川貫弌資料」を公開することで、その学術的意義を広く発信し、国内での同種の新資料発掘につなげやすくすることを企図した。 「日中戦争下の学術調査と人的交流を探るプロジェクト―興亜留学生小川貫弌の記録」 https://www.doho.ac.jp/news/1799-2022-03-31-03-00-01 https://sites.google.com/view/doho-bukken-ogawadocuments
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日中戦争下の学術調査に関わる「小川貫弌資料」の調査・分析を通して、近代の日中交渉史の一端を明らかにしようとする本研究にとって、2019年末からの新型コロナウイルスの感染拡大は、中国での現地調査の実施を阻害し、調査研究の進捗に重大で深刻な影響を与えてきた。特に、2019年度以降、山西省と南京の2つの地域における調査を計画、このうち実際に調査が実施できた山西省では、山西省民俗博物館を拠点として、現地の中国人研究者と資料を共有し、調査協力体制を構築した上で、さらに踏み込んだ形で調査を行う計画を練ったが、新型コロナウイルスが流行をみせはじめ、これ以後、数度にわたって行うはずであった同省での現地調査は実施することが全く不可能となった。さらに、2021年度に入っても、新種株のウイルス流行が相次ぎ、中国渡航自体が困難である状況が続いているだけでなく、仮に調査を敢行したとしても、中国入国後における移動制限や観察措置(2週間の滞在費用は自費負担)など、日程面でも、費用面でも、効率的に調査を行える状況には至っていない。結果として、中国現地調査を再開させることはできておらず、その意味では、当初の研究計画に照らして、課題の進捗状況は遅れていると言わざるをえない。 ただし、そうした一方で、2021年度には、研究の根幹となる「小川貫弌資料」について、新型コロナウイルス流行以前までに撮影終了していた写真資料約350点を中心に、学術資料として公開する作業を漸次進めており、2022年3月に「日中戦争下の学術調査と人的交流を探るプロジェクト―興亜留学生小川貫弌の記録」として、画像データベースの形で一部公開に踏み切った。今後も中国現地調査の再開が難しい場合は、「小川貫弌資料」だけでなく、これ以外の同種資料・関連資料も視野に含めつつ、国内で資料調査を行い、当該データベースの拡充につなげていくことを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年3月、「日中戦争下の学術調査と人的交流を探るプロジェクト―興亜留学生小川貫弌の記録」として、調査資料の一部を画像データベース化して学術公開に踏み切ったが、今後はこの公開データベースを中核に据えて、研究活動の方向性を新たに見直していくことを考えている。具体的には、「小川貫弌資料」の公開データ数を増やし、その内容を拡充していくとともに、新型コロナウイルスのために中断した中国での現地調査に代わり、国内で資料調査を行って、「小川貫弌資料」と同種資料の発掘を試みていく。 また、これまでの調査過程で、その存在が明らかになっている同種資料に関しては、所蔵者・関係者との折衝を図り、「小川貫弌資料」と同様、調査データをとり、デジタル撮影を行って、上記データベースのWebサイトを通して、公開への道筋を探っていく。従来、戦争下に研究者が残した記録類は、単なる遺稿・遺品として見過ごされ、廃棄・散佚されてしまう傾向にあったが、そこに新たな史料的価値を見出し、Web上にてそれらを相互に関連づけることができれば、日中交渉史研究のための新たな資料プラットフォームの形成が可能となる。今回、「小川貫弌資料」を画像データベース化して公開したことによって、そうした資料に対する認識が高まり、ひいては、同種資料の新たな発見・発掘につながることが期待されるのではないか、と考えている。 なお、山西省の研究機関との共同調査計画など、中国現地調査も視野には入れて温存を図っておきたい。度重なる混乱を経た中国では、近代史を復原する記録がほぼ残されておらず、日本国内に残された資料を中国の研究者と共有するとともに、日本語で書かれていることで未整理のままにされてきた、日本統治期資料の調査を共同で進めることには大きな意義があるからである。新型コロナウイルスに関する中国側の措置緩和を待ちながら、準備だけは進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、中国現地調査が実行できず、また、中国人研究者に委託して現地調査を代替してもらう計画も検討したが、調査精度の問題も含め、進捗管理が極めて難しく、リモートによる現地調査実行は断念、結果として次年度使用額が生じている。本研究を進めるにあたって、中国での現地調査は非常に重要な位置を占めているだけでなく、新型コロナウイルス流行以前、実際に中国で行った現地調査がきわめて順調に進み、中国の研究機関との協力関係構築など、より踏み込んだ形での調査体制が整い、日本統治時代の新出資料の存在も明らかになっていたため、調査を完全に中止することはせず、研究期間を延長するというスタンスをとっていることも、次年度使用額の額面に影響を及ぼしている。 ただし、2021年度には、中国現地調査を実施できなかったその代替策として、研究の根幹となる「小川貫弌資料」の画像データベース構築に着手、一部の重要度の高い資料については、学術公開という形をとった。今後、中国調査が実施できない場合には、当該データベースを通したデータ公開を、「小川貫弌資料」以外の、国内に残された同種資料・関連資料へと拡充していく計画で、国内での資料調査実施のための旅費、資料撮影のための人件費等に予算をあてることを考えている。
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