今までの地震学分野における歴史地震研究では、史料の被害記述に基づいて被害発生場所の震度が推定されているが、史料に被害記述のない場所については検討の対象外である。そこで本研究では、史料にある被害発生場所と史料に散見できない無被害場所との比較・検討から、地震関連史料からは窺えない都市域全体の地震被害について考察を試みた。 都市域の全ての地震被害について考察することは困難であるため、近世後期の京都に被害を及ぼした1830年文政京都地震について、当該期の都市域において大半の面積を占めていた町家の地震被害を対象とした。なおこの考察では、地震関連史料だけでなく当該期の京都の都市構造に関係する史資料を活用した。 その結果、町家の地震被害の差異には、地震の揺れ方の大小や強弱だけでなく、屋根の大きさや屋根材の種類など揺れを受ける町家の状態も関係していたと考える。また、町家が立地する街区の町人の経済状況によって、建築時の部材や工法、建築後の補修の頻度などに差異が生じ、個々の町家が平時から有している特性が、地震時の被害状況や程度に影響を及ぼしていたと考える。
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