研究課題/領域番号 |
18K00924
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
加藤 千香子 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (40202014)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植民地主義 / 在日朝鮮人 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
戦後日本の植民地主義の忘却をテーマとする本研究では、本年度は、主に以下の3点にとり組んだ。①植民地主義全般にわたり、特に植民地帝国とジェンダーに関する考察、②抑留者における植民地忘却と意識化 ③1970年代における植民地主義の想起―特に「在日朝鮮人」の問題化の過程。 ①に関しては、特に植民地主義とジェンダーの問題に焦点をあわせ、近現代日本のジェンダー秩序を植民地帝国であった日本の植民地主義という観点から再考する作業を行なった。論文化には至らなかったが、2019年7月6日の植民地文化学会フォーラム「植民地としての女性」でコメントを行い、また12月8日にはジェンダー史学会シンポジウム「象徴天皇制/君主制とジェンダー」の企画とコメントを行った。また2020年3月6日にフランス国立東洋言語文化研究所(inalco)で講演(「帝国」日本の女性像)を行い参加者との討議を行った。 ②に関しては、シベリア抑留者である松本茂雄氏による講演「私が体験した戦争と抑留」(神奈川歴史教育者協議会主催、2019年5月26日)で松本氏自身が体験を想起し証言する過程についてコメントを行うなかで、抑留者自身の植民地の忘却や想起の問題や抑留者の「棄民化」と戦後日本の植民地主義の関係について考察を行った。 ③は、今後の本プロジェクトの核となるものとして今年度より本格的な取組みを開始した。まず以前の研究対象でもあった1970年代の在日朝鮮人と日本人との協働闘争といえる「日立闘争」について、中心人物だけでなくそれを取り巻く参加者の認識、ライフヒストリーを追うこととし、聞き取りや資料調査を開始した。また、「日立闘争」の前後の日本社会における「在日朝鮮人問題」の問題化、そこでの植民地主義の想起され方に注目し、メディアを中心に当時の言説に関する資料収集を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的に沿って研究を進めることができていると判断する。ただし、当初の計画では、地域レベルの人びとの意識や政策に即してそこに表れる植民地主義やその忘却の問題を検証することを考えていたが、これまでの研究過程では、当初予定していた研究目的を達成するには、その背景や大きな枠組みについての理解が必要であることに気づき、対象や時期を広げることとなった。具体的には、「研究実績の概要」で書いたように、この研究におけるジェンダーの視点の導入の方法についての検討や抑留者とのかかわりなどについての考察を行うこととなった。 また、当初の計画との関わりでは、1970年前後が大きなターニングポイントであることが明確になったため、今後はその時期を焦点化して進めて行くこととする。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究実績の概要」の中で③として書いたように、戦後日本における植民地主義の想起―忘却の意識化―にかかわる大きなターニングポイントとして位置づけられる1970年代の問題に対象を絞り込んで、研究を行っていく。 当初の計画では、地域レベルの人びとの意識や政策に即してそこに表れる植民地主義やその忘却の問題を検証することを目的としていたが、それらについては、1970年前後における諸事件―特に「在日朝鮮人」の問題化とのかかわりで検証していく。 具体的には、1968年の金嬉老事件、1969-70年の入管闘争、そして1971-74年の「日立闘争」を対象として、それらの過程での議論や参加者個々人の認識などを検証するとともに、それらがどのように地域や人々の意識変容に影響を与えたのか、関連する資料の収集や聞き取りを行いながら進めていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は2020年3月に中国・海南大学での国際シンポジウム(丁玲学会主催)に出席する予定で旅費を計上していたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて学会が中止となりその分の旅費や通訳謝金などを使用することができなくなった。翌年度には学会の開催が予定されているため、旅費としての使用を計画している。
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