研究課題/領域番号 |
18K00929
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
守田 逸人 香川大学, 教育学部, 准教授 (10434250)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 荘園調査 / 景観復元 / 荘園絵図 / 近世絵図 / GIS / 中世文書 / 史料保存 / 現地調査 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、東大寺領伊賀国黒田荘故地(現三重県名張市一帯)を主要なフィールドとし、讃岐国善通寺領故地(現香川県善通寺市内)を補足的なフィールドとし、前近代の地域社会の景観・構造の歴史過程を、荘園絵図や文献史資料、現地調査をもとに明らかにしている。2021年度のおもな研究実績は下記の通りである。 【黒田荘故地の調査】2020年3月以降、地球規模で広がった新型コロナウイルス感染症の影響が続き、2021年度も県外への移動禁止などの感染防止策が繰り返されたことで、黒田荘故地の現地調査は一度も実現できなかった。そのため、2020年度と同様、2021年度は補足的なフィールドである讃岐国善通寺領故地に研究対象を絞り、研究活動を進めた。 【善通寺文書の包括的調査】善通寺宝物館に所蔵する中世史料を中心としつつ、近世・近代文書も含めた文書群全体の包括的な調査を行った。善通寺は、平安時代以来空海生誕地という所伝を持ち、平安時代以来の伝来史料群を持つ日本列島を代表する地方中核寺院であり、善通寺所蔵の中世史料は中世善通寺領の景観復元に必要な史料となるものの、これまで包括的な研究がなされてこなかった。本調査情報の取りまとめと公開により、善通寺領の景観復元の精度をあげるだけでなく、地方中核寺院としての善通寺そのものの性質や地方寺院の文書管理のあり方の解明等、諸分野にわたる中世史研究にも大きく寄与すると考えられる。 【善通寺領故地の現地調査】讃岐国善通寺領の領域全体を描いた「善通寺領絵図」の精査とともに、善通寺にて調査した文献史料の情報をも活かしながら、史料上に現れる前近代の地名や在地寺社、集落などの諸情報について、現地に残る通称地名や伝承等の聞き取り調査、地域住民が保存してきた資料等の調査などを行って突き合わせ、得られた情報をGISに登録、検証作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【黒田荘故地の調査】新型コロナウイルス感染症が地球規模で広がって以降、調査は中断した状態である。 【善通寺文書・善通寺領故地の現地調査】コロナ禍が広がり、本フィールドに焦点を絞って以降、順調に調査・研究を進めることが出来ている。本年度は、善通寺領関係史料の把握のため、中世文書を中心とした善通寺所蔵文書の包括的な調査・撮影を繰り返し行い、善通寺宝物館に収められている善通寺文書がどの様な経緯で現状の状態に伝来してきたのか、検討を進めることが出来た。また、当面の史料調査の結果について、中世史研究会例会(名古屋大)、四国中世史研究会等で研究報告を行った。一方、現地調査については、荘園絵図「善通寺領絵図」(重要文化財)や文献史料の情報をもとに、とくに寺領を囲う境界ポイントについて様々な成果を得た。例えば、寺領西堺境界ポイントの三井之江地区には「大窪寺」なる寺院跡伝承地があるが、今回の現地調査の結果、古くからこの地点では地域住民の間で古瓦等が発見されてきたこと、さらに今回の調査でそれらの古瓦が中世に遡る古瓦であることも確認できた。平安期以来の関係史料には善通寺領内に「大窪寺」が現れることから、両者の関係について今後検討していく必要がある。なお、調査成果の一部は『大学的香川ガイド』(昭和堂)にて活字化して発表した。 【GISを用いた調査方法に関する研究】2018・2019年度に実施してきたGISを利用した情報記録の方法・技術の高度化を目指す実験・研究会については、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、2020年度に引き続き、2021年度も実現できなかった。 以上、全体の進捗状況を見わたすと、東大寺領伊賀国黒田荘故地の現地調査が著しく遅れている一方で、讃岐国善通寺領故地については、順調に調査・研究活動を行うことができ、最終年度を迎えて、一定の成果を見込める段階に来たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
【黒田荘故地の調査】本研究課題最終年度となる2022年度は、2018年度に重点的に調査した名張市竜口地区の情報をまとめ、補足調査を行い景観復元の成果を論文等にまとめる。また、コロナ禍の社会状況を慎重に見極めつつ、調査対象地中心地点のひとつである黒田地区の区有文書の調査を目標にしたい。最低限、今後の調査・研究を見通せるような情報収集を兼ねた調査は行いたい。 【善通寺文書・善通寺領故地の現地調査】2021年度にまとまった調査を行うことができた善通寺所蔵文書については、2022年度も引き続き断片的な文書や聖教類の調査が必要である。また、中世段階で善通寺の本寺となっていた随心院(京都)に伝わる関係文書についても具体的な調査を行い、中世善通寺領に関する史料についての検討を深めたい。これらの史料研究の成果そのものも、大きな研究成果であり、論文・報告書等の形で発表することを計画している。一方、現地調査については、史料調査・研究によって導き出した地名や景観に関わる現地の情報について、引き続き現地調査を通じて随時細かな情報を現地で得ながら、GISに情報を蓄積させていく。景観復元の成果は論文の形で発表し、細かな調査情報についは、報告書などの方法でまとめ、発信していくことを目指す。 【GISを用いた調査方法に関する研究】コロナ禍の社会状況が改善され次第、周辺研究者と連携してGISを利用した調査方法に関する実験・研究会を可能な限り行い、高度化・効率化を図っていく。 以上、2022年度は、コロナ禍以降も安全を期しながら調査・研究を順調に進めることができている讃岐国善通寺領故地については引き続き力点を置き、本来主要なフィールドとして設定してきた伊賀国黒田荘故地は、慎重な姿勢を崩さず無理なく可能な範囲で調査・研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き2021年度も地球規模で広がった新型コロナウイルス感染症の影響により、県外への移動禁止などの感染防止策が繰り返し発令され、主要フィールドとしてきた伊賀国黒田荘故地(現三重県名張市一帯)での調査が実現できなかった。そのため、研究期間の延長を希望して当該フィールド調査を想定した経費の部分を残した。 本年度も、黒田荘故地の調査は社会状況をみながら慎重を期して可能な限りの範囲で行う。一方、調査・研究の実施が現実的である讃岐国善通寺領故地(香川県善通寺市)も継続的に活動を行う。予算の執行もそれにあわせた運用方法をとりたい。
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