本年度は、本研究の最終年度であり、研究成果をまとめることに主眼を置いたが、成果を報告書として活字化するだけではなく、出雲古代史に関心を持つ一般市民に平易な形で情報発信を行った。具体的には、2022年12月4日島根県立古代出雲歴史博物館講義室において、シンポジウム「出雲系神話の成立と変容-ヤマタノヲロチ神話を中心に-」を開催した。コロナ禍ということもあり、対面参加とオンライン参加を併用するハイブリッドの形態をとった。 次に、報告書作成に向けて出雲周辺地域の補充調査を実施した。具体的には、中国山地から瀬戸内海沿岸における古墳や出雲系の神々を祭る神社を踏査し、6~7世紀代においてヤマト王権の影響の下に展開した出雲と吉備の交流の歴史が、『日本書紀』のヤマタノヲロチ退治神話の成立に影響を与えていることを確認できた。また、スサノヲ信仰が日本海側だけではなく瀬戸内海沿岸に広がっていることを確認できた。 4年間にわたる研究協力員との共同研究により、ヤマタノヲロチ退治神話は出雲だけではなく、中国山地一帯に分布しており、その歴史的背景として律令国家成立直前における出雲や吉備の動向に注意する必要があること、ヤマタノヲロチ退治神話を含めた出雲系神話の地域社会への受容については、平安時代に成立した『先代旧事本紀』が果たした役割を考える必要があること、中世における変容を考える際には、中世のスサノヲが鬼神や悪神を束ねる冥界の主であるという性格と勇猛神であるという二面性の性格を有していたこと、ヲロチ退治神話を製鉄と関連付ける発想は近代から始まったことなどを明らかにできた。その成果を報告書の形でまとめ、図書館や島根県の文化財行政を担当する職員、学界の研究者に送付し、研究成果の情報発信と共有化に努めた。
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