2021年度の研究成果の概要は以下の通りである。 (1)日本古代史分野でジェンダー視点による史料の再分析が重要な課題になっている。そこで、古代史料自体が持つジェンダー・バイアスの弁別が緻密な史料批判とのかねあいで重要であることと、現代社会に生きる研究者自身が内包しているジェンダー・バイアスが、史料分析に影響を与えてきたことを明らかにし、ジェンダー視点による新しい成果としての古代女官研究の到達点を提示した(「古代日本の女官/女性官僚―2重のジェンダー・バイアスへの問いかけ―」『歴史学研究』1016号)。 (2)古代、天皇の政治システムに組み込まれた女官は、国家の重要儀礼である朝儀などの政治空間に列立し、国家意志形成過程に関わった。そのあり方を、①衣服令・公式令などの律令体系、②『続日本紀』の記述にみる具体例、③律令前史としての『日本書紀』の記載(とくに、男女を問わない地方豪族による仕奉、王権の地方支配と女性首長の存在、職掌集団のリーダー女性の伝承など)―を手がかりに分析した。律令に規定された女性の政治参画が、このような律令前史の古代社会のあり方を踏まえて形成されたことと、律令運用のなかで王権の意図と実態に即して変化が生まれたことを明らかにした(「古代の政治空間のなかの女性―国家意思形成との関わりについて―」『国立歴史民俗博物館研究報告』2022年9月刊行予定)。 (3)古代社会における女性の地位が、ジェンダー規範の導入によって変化していったことを、古代史・考古学の成果を踏まえて明らかにする企画に加わり、女性官僚の実像を、7~8世紀初頭の律令国家確立期の制度改革と人材登用策と結びつけて描き出した(とっとり考古学フォーラム2021)。
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