本年度は、新型コロナの影響のため補助事業期間延長が認められた。データベースについては、従来の方法を継続するとともに、報告書に向けて中世前期の国郡紛争関係史料のデータベース化の作業を継続した。戦国期までのデータベース作成については、東北・関東・中部までは80~90%の資料の収集ができた。ただ中国・四国・九州の関係史料についてはあたるべき自治体史の数も多く、思い通り進めることができなかった。今後さらに科研の申請を行うなど継続的に作業を行い、データベース公開にむけて研究を継続したい。 調査としては、伊賀・近江・大和国境地帯の調査・巡検を実施した。その結果この地域が平安期以来の有数の紛争地域であることが再確認できた。特に河川交通を通じての材木流通が盛んに行われて畿内の権門寺社へと運ばれ、そのため東大寺や春日社等の権門寺社間の紛争が惹起し、それが国郡境目紛争へと接続していくことが明らかになった。 また、今後の研究課題を考えるために九州の肥後・筑後・肥前国境地帯の調査を実施した。この地域の場合は、南北朝期以来、菊池氏や三池氏等の国人・国衆レベルの地域権力が複雑な動きを示し、それが戦国期までの継続的な国境紛争と密接に関連していたことが知られ、畿内周辺の紛争との類似点や相違点について考えるという重要な課題が明らかになった。 そして、研究期間全体に関わる研究成果について報告書を作成した。報告書では、鎌倉期の国郡境目紛争関係史料のデータベースとともに、主に調査を実施した伊賀・甲賀国境地域と、摂津住吉社と大きく関係する播磨・摂津・丹波国境地域の調査に関する報告を中心に作成した。そこでは畿内周辺地域の国郡境目紛争が、権門寺社との関係という共通の特徴を持っていることを明らかにすることができた。
|