研究課題/領域番号 |
18K00942
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
小原 嘉記 京都女子大学, 文学部, 准教授 (40609202)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大勧進 / 周防国 / 禅律僧 |
研究実績の概要 |
本年度は「東大寺大勧進関係文書群データベース」構築の基礎作業として、次の2点をおもな調査内容として研究を行った。 (1)昨年度に引き続き、東大寺文書(東大寺図書館所蔵文書および東大寺旧蔵文書)の中から東大寺大勧進に関わる史料を抽出してデータ整理を行った。今年度で東大寺文書を対象とした作業はほぼ終了できた。あとは若干数の史料について写真帳等の確認が必要なものは残っているが、順調な研究遂行状況であった。本年度も未紹介の東大寺大勧進関係史料をそれなりの数見出すことができた。特に鎌倉後期の史料についてはその重要性に鑑み優先的に翻刻を進めていった。この取り組みによって新たな史実の発掘に基づく議論の深化・発展が可能になる。また、本年度は南北朝期の東大寺大勧進に関わる未紹介史料の存在にも注意を払った。というのは、南北朝期の東大寺大勧進の研究は全体的にまだ不十分な段階にあるため、本研究によって議論の活性化を図っていく必要があるためである。 (2)東大寺大勧進の住院である禅律寺院関係の史料・情報の収集を行った。昨年度に引き続き、東福寺・三聖寺・万寿寺を重点的に作業を進めた。また(1)の作業を遂行する中で課題として浮上したのが、東大寺文書の中に伝来関係から「戒壇院文書および油倉文書」「真言院文書」とすべきものが多くあり、それらを以下に弁別すべきかという問題であった。この点は(1)の作業の完遂をまって分析を行う予定であるが、その前提として東大寺大勧進を務めた聖守に関わる聖教史料が一定度存在していることが判明したので、昨年から継続している紙背文書調査をもとに、それらの情報整理を行った。 このほか昨年同様に中世の地方禅院のモデルケースとして尾張国妙興寺の展開のあり方を列島規模の禅律僧の活動を見据えて考察するとともに、政治史的観点からの検討作業も進めていき、東大寺大勧進と禅律僧を分析する際の一助とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東大寺文書に関わる調査については、一部の未調査分が残っているとはいえ、大方は終了という状況であり、一定の区切りをつけることができた。本研究の目的である東大寺大勧進関係史料のうち未紹介のものの情報も確実に蓄積して翻刻作業を進めており、歴代の東大寺大勧進として全く知られていなかった僧侶の存在もこれまでの作業過程の中で明らかになるなど、「東大寺大勧進関係史料群データベース」の構築に関わる調査・研究は順調な進行状態にあるといえる。 また非東大寺僧である東大寺大勧進の住院の史料調査を進める一方で、本年度は東大寺大勧進と個別的な親交をもった禅律僧・禅律寺院の動向についても注目してみた。具体的には栄西と俊じょうや、東福寺と泉涌寺についてである。ここに注目したのは、いずれも大陸との関係性という観点からであったが、これによって大勧進による周防国の経営の問題や、関東との関係性など、広い視野から東大寺大勧進について考えていく視座をえることができた。こうした知見の一部は講演等によって示した。 このほか中世の禅律寺院のモデルケースとして、昨年度に引き続き尾張妙興寺の形成に関わる分析を進めた。本年度は昨年に課題として残った政治史的観点からの検討を行い、中央の政治動向によって禅院・禅僧が幕府・守護とどのようにして関係構築の動きを示すのかについて考察することができた。中世妙興寺史研究としても新たな一面を提示できる研究内容になったと考える。 以上にかかわる本年度の成果として、中世禅律僧の活動とネットワークを列島規模で考察した論考を発表したほか、二代目東大寺大勧進である栄西の活動を再点検して、彼が重源や王権・幕府といかなる意図のもとで関係を取り結び、さらには大陸の影響が東大寺再建等にどのような形で現れているかについて考察した内容を講演によって示した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度が本研究の最終年度となるので、これまでの調査・作業の成果の総合化と中世東大寺史および中世宗教史の文脈の中に研究で得られた知見を位置付けていくための考察を行うことが大きな課題となる。ただ、その前提としてまだ未調査となっている史料の早急な調査を進めていく必要がある。 東大寺文書の調査については本年度で一応の区切りをつけることができたので、あとは予備的調査を行えば完了ということになる。また京都周辺の禅院・律院の調査も大方の目途はついたので、2020年度は関東(鎌倉)の律院を中心にして史料調査・情報整理の作業を進めていく予定である。特にこれまで手薄である南北朝期も視野に収めて、西大寺流と関東律院の人的交流を見据えた議論の土台を作っていけるように心がけたい。 以上の作業を通じて〈中世東大寺大勧進関係史料群〉データベースの完成を急ぐとともに、未紹介史料等の翻刻も精力的に進めていく。 またこれまでの調査・研究の過程の中で得られた知見を論考・報告等の形で公表することも重要である。2019年度の成果は早期に公表できるように努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の業務が落ち着く3月に史料調査を予定していたが、2019年度末は全国的な新型コロナウイルスの影響により、出張自体も自粛する必要があり、同時に調査機関自体も閉室などの措置をとり始めていたので、旅費としての使用を断念した。 次年度も新型コロナウイルスの状況は改善する見込みがないことも視野に入れなければならず、現段階では史資料の収集の方に費用を振り向けることを考えている。
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