本研究の目的は、土地制度の分析によって、日本古代の文明化の過程を明らかにすることにある。律令国家成立前後の土地制度について、心性史的分析と比較史的分析を行うことで、日本固有の伝統社会=「未開」の位相と、中国伝来の律令制=「文明」の位相を明確化し、前者から後者への移行プロセスを具体的に跡づけようとする試みである。土地をめぐる呪術的・宗教的・道徳的心性の分析と、日中の比較による土地制度の異同の分析を通じて、「未開」の要素と「文明」の要素のあり方を確かめ、律令国家の成立にともなう社会の文明化の様相を明らかにすることを目指してきた。 最終年度にあたる2021年度は、土地開発に関する追加的な事例収集・調査をおこない、4年間の研究成果の総括につとめた。具体的には、大和国栄山寺領(宇智郡条里)、大伴氏庄田(竹田庄・跡見庄)などの現地踏査を実施し、これまでの成果に有益な情報を加えることができた。新たな研究成果としては、日本古代国家の人民支配における農業的特質と、その中核にある天皇の役割を述べた論文「オホミタカラと天皇」、また古代社会の文明化過程における天平期の重要性に注目した論文「画期としての天平時代」を発表した。 補助事業期間全体を通じて、民俗学・日本文学などの隣接諸学の成果を吸収しつつ、土地制度に関する心性史的分析と比較史的分析を進め、その成果を、単著書『大地の古代史』などの著作にまとめて公表してきた。それらにより、日本古代社会の土地との関係性が、開明的なものに変容していく過程と、その逆説的な結果としての新たな「未開」の要素の出現を、指摘することができた。
|