最終年度にあたる本年度は、前回の科研から継続して請来典籍の寺院やその他の官衙などでの分布と保管および東アジア諸国間での典籍の相互移動を含む活用に関する大枠的推移を確認するためのデータベースの作成・修正作業を行い、その公開へむけた準備作業を行った。ただし自身の疾病(脳梗塞)の後遺症の影響などもあり、残念ながらこの作業は必ずしも順調に進めることができず、データベースの完成・公開は今後の課題とせざると得なかった。またコロナウイルス感染症流行の影響もあり、当初予定していた、日本に請来された典籍の原本を所持していた中国・韓国などの寺院の実地巡検調査も行うことができなかった。 ただしそうした中で、倭国への仏典請来の初発の事例でもある百済からの仏教の伝来の事情に関する論文をまとめ、公開することができた。また平安期以降の日本における仏典の最大の集積地ともいいうる比叡山延暦寺について、その一山寺院としての形成について、最澄・円仁・円珍といった請来典籍をもたらした入唐僧と諸院家の成立との関わりを軸に明らかにした論文「比叡山諸院と初期天台宗の形成」を執筆することが出来た。この論考は、法蔵館より宮﨑健司編『日本古代の社会と宗教』に収録され公開される予定である。 さらに、7世紀から9世紀における東アジア諸国への渡航僧や、日本に来訪・定住した東アジア諸地域の僧らを悉皆的に調査し、彼らが請来した諸典籍の特徴を検討することを通じて、東アジアから渡来・往還した僧らが古代日本の「知」の形成に果たした役割を明らかにする論文の執筆準備も進めつつある。
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