研究課題/領域番号 |
18K00958
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福家 崇洋 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (80449503)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宮崎滔天 / 宮崎龍介 / 吉野作造 / 無産政党 |
研究実績の概要 |
前年度の研究実績報告時に「印刷中」とした「宮崎家所蔵吉野作造書簡」は『吉野作造研究』15号(2019年4月)に掲載された。同資料解説執筆時に吉野作造と中国問題について研究した知見を発展させ、京都大学人文科学研究所「20世紀中国史の資料的復元」共同研究班で同年7月に「吉野作造『支那革命小史』小考」と題して報告を行った。同報告は『支那革命小史』などで展開される吉野の中国論を彼の第一次大戦論を参照としつつ思想史的な方法から再検討を行ったものである。 また法政大学大原社会問題研究所主催の無産政党資料研究会で、同年8月に「無産政党関係資料の紹介 宮崎家所蔵文書から」を、同年12月に「社会大衆党結党についての一試論」を報告した。いずれも本調査で明らかになった新出の宮崎龍介(滔天長男)関係資料を用いた。前者は、同関係資料のうち龍介が幹部に就く無産政党の諸資料について報告した。後者は、この資料のうち社会大衆党結党関連の一次資料を用いてこれまで事実関係の描写で済まされていた同党結党の背景を報告した。無産政党資料研究会の成果として『社会民衆新聞』『社会大衆新聞』復刻版が同年12月に刊行されたが、この解説執筆にあたり本調査の成果と無産政党資料研究会の報告が活かされる予定である。 次に論稿である。本年度は、無産政党資料研究会での報告「社会大衆党結党についての一試論」をふまえて、同党前身の一つ全国労農大衆党の結党過程を論じた「全国労農大衆党結党の検討」を『大原社会問題研究所雑誌』740号の特集「無産政党の史的研究――『社会民衆新聞』『社会大衆新聞』を中心に」に投稿した。全国労農大衆党に対象を変えたのは先行研究が少なく、まず同党の結党過程を実証的に解明しなければ社大党の結党過程はわからないためである。同論文は新型コロナによる緊急事態宣言により作業が一次中断したが、2020年中に刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、宮崎滔天・龍介研究、及び日中交流史研究の土台を再構成することである。以下、資料の①整理、②保存、③公開に分けて進捗状況を説明する。まず①整理から。1年目は宮崎滔天関係資料(とりわけ書類)に絞って、宮崎家において資料整理を試みたが、2年目は滔天関連の書簡に絞って資料整理を行ったのと、龍介関係資料の整理にも着手しはじめた。まず前者については、滔天の書簡は『宮崎滔天全集』に収録されているが、滔天宛ての書簡は収録されていない。これまで企画展やその図録などで、滔天宛ての書簡が一般公開されているが、いまだ全容は未解明である。本年度は書簡の目録を作成しつつ、そのうち全集未収録かつ貴重な書簡についてはアルバイトを雇用し、翻刻を行った。後者の龍介関係資料についてはある程度まとまって保存されていた無産政党関係資料から整理に着手し、その概要を研究会で報告したことは「研究実績の概要」の通りである。次に②保存である。これは前年度同様、中性紙箱・封筒を購入して、劣化資料、破損資料の保護を行った。また、宮崎家に所蔵されている写真のデジタル化を行った。明治期の滔天関係の写真が残されており、とりわけ辛亥革命前後の中国革命運動家との交流を伺うことができるため、貴重なものである。最後の③公開については、前年度翻刻した文書とともに、上記の書簡、写真を所蔵者の許可が得られるものについては公開したい。また最終年度における宮崎滔天関連資料の目録公開に向けて準備を進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について述べる。宮崎家所蔵資料については、まず宮崎滔天に対象を絞り、1年目は滔天関係資料のうち文書を、2年目は書簡を中心に整理を行ってきた。滔天の妻である槌子関係資料もあり、一部の資料は『宮崎滔天全集』に収録されているが、全容は未解明である。また長男の宮崎龍介関係資料については、滔天よりも圧倒的に量が多く、全容を把握するのはいたっておらず、さしあたり無産政党関係資料のみ整理したことは前述の通りである。しかし、龍介の時代の資料がとりわけ豊富に残されており、戦時から戦後にかけての日中交流史を考えるうえでも貴重な資料があり、今後のさらなる研究資金獲得による解明が必須である。今後も槌子や龍介資料の整理に携わりたいところだが、次年度は最終年度のため、成果のとりまとめに向けた作業を中心に行う必要がある。これは、『大原社会問題研究所雑誌』投稿論文を無事に世に送り出すことと、滔天関係資料の文書、書簡を中心とした目録、およびそのうちの『宮崎滔天全集』未収録の貴重資料を翻刻のうえ、所蔵者許可の上で学術雑誌などに公開することに注力したい。以上の基礎研究を通して、宮崎滔天・龍介研究、日中交流史研究の活性化に貢献できればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行を受けて、3月に予定していた宮崎家への出張を中止せざるをえなかった。このため、当該旅費を次年度に繰り越した。しかし、年度末の出張1度のみの延期で昨年度の進捗や研究計画に問題は生じていない。
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