研究課題/領域番号 |
18K00960
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
塚本 明 三重大学, 人文学部, 教授 (40217279)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海藻漁 / 海女 / 志摩 / 複業 / 流通 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き志摩漁村を対象に、潜水漁に従事しつつ海陸での多様な働き方を営む「海女」に焦点をあて、特に海藻をめぐる生産・流通構造に注目し、分析検討を進めた。 志摩国内部でも地域差があるが、志摩半島の西南端の先島半島では漁獲物全体に占める海藻の比重が極めて高く、近世・近代期には現代に比べて桁違いの量の海藻が収穫され、出荷されていた。海藻漁は、海中に潜水して刈り取る以外に、浜に流れ着いた海藻を拾う、また岩場の海藻を摘み取る形態があるため、その所有権(漁業権)が村共同体共有の性質を帯びるという特質がある。近代以降の漁村においても、海藻漁の収益を村が管理し、学校の維持など共同体経費にあてられることが多かった。志摩漁村特有の村税徴収制度「口銀制」も、もともと海藻漁に即したものであったことを明らかにすることができた。 海藻は乾燥させることで保存・運搬が容易くなり、他の魚介類に比し漁民に有利な商品となる。漁民のなりわいとしては、海藻を採取するだけではなく、乾燥させ、出荷用にまとめ、上方の商人と交渉し、船に積み込む作業など、「複業」を必然化させた。 幕末以降近代前期に掛けて、中国大陸を中心とした寒天需要の増大により、原料のテングサの生産、流通が爆発的に拡大した。それが海女たちの広域的な出稼ぎを誘発し、朝鮮出漁にまで及ぶこととなる。19世紀以降に東アジアの広い範囲で、海藻をめぐる生産・流通構造が大きく転換したとの見通しも、得られることができた。 2020年12月に、人類学、社会学、水産研究など多様な研究者を招いて鳥羽市立海の博物館にて「海女と海藻漁」をテーマにシンポジウムを開催し、自ら「近世志摩海女の海藻漁の特質」と題して報告も担当した。当日の質疑応答を踏まえて『三重大史学』21号(2021年3月刊)に論考「近世志摩漁村の海藻漁の特質」を発表した。今後の展開の基盤とするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、当該年次には熊野地域(尾鷲)での史料調査を進め、山林や海の共有意識をキーワードに、コモンズに関する議論を念頭に置き、北勢地域(治田)で検討した山林の入会権の問題を含めて比較研究を行う構想を持っていた。だが新型コロナウイルス感染の影響で、現地や都市部の史料所蔵機関に赴いての調査が困難となり、計画を大幅に変更せざるを得なかった。そのため、これまでに収集しておいた史料を整理し、改めて分析・検討を加え、それをまとめる作業に専念することとした。その結果、志摩地域については前項の通り海藻漁についての一応の成果を得、熊野については以前の科学研究費補助金研究(平成19~21年度基盤研究(c)「江戸時代における参詣街道沿いの地域社会の構造)で得られた史料・データを用いて、著書をまとめる作業を進めた。研究活動全体としては、それなりに順調に進めたが、本科学研究費の課題に即して見れば、「やや遅れている」との評価にならざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度を迎えるが、今年度も新型コロナウイルス感染の状況をにらみつつ、史料調査を検討することになるだろう。志摩の海藻漁に関しては、19世紀以降の構造変容、国内外の海藻漁との比較検討など、東アジア世界を射程に入れ、多様な研究者を集めての学際研究を構想しており、その準備を進めることとしたい(今年度と同様に、学際的研究シンポジウムを開催する予定である)。また熊野地域については、道や船など海陸の交通手段が活発な地において、どのような地域社会が展開したのか、外来者をどのように迎えたのかという課題に関して、著書をまとめる予定である。加えて、地域特性に基づいて発生した諸事件について、史料の分析検討を進め、次の成果公表の準備を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染の影響で予定していた史料調査ができず、学生を雇用してのデータ整理作業も断念せざるを得なかった。また、史料調査に伴う写真の紙焼きもできなかった。新年度には可能な限り史料調査を実施し、またこれまで撮影した写真を含めて紙焼きとデータ整理を行う予定である。
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