研究課題/領域番号 |
18K00960
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
塚本 明 三重大学, 人文学部, 教授 (40217279)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海女 / 入会地 / 海藻 / 海と山 / 肥料藻 |
研究実績の概要 |
志摩の海女漁に関する史料が豊富な志摩市の越賀郷蔵文書について、その中核文書を整理し、『旧越賀村郷蔵文書調査研究事業報告書』として刊行した。史料解題の他、海女漁に関わる主要な史料を翻刻・紹介した。 前年度の成果を踏まえ、海藻の肥料としての利用に注目し、史料の収集を始めた。明治初期には大坂商人との間で活発に売買されたアラメやテングサに匹敵するほどの量で、村内で「肥料藻」が取り引きされていたこと、アラメ・カジメのヨード加工時には、肥料としての利用から転換があったことなどを確認したものの、コロナ禍のなかで史料調査が思うに任せず、論文作成は断念せざるを得なかった。 そこで少し方針を転換し、熊野灘の尾鷲地域で収集・蓄積してきた史料を再検討し、『江戸時代の熊野街道と旅人たち』(塙選書)として上梓した。タイトルは交通史的な内容ではあるが、旅人たちを迎える地域社会の構造を論述する中で本科研の研究成果を活かすことができた。 2021年12月には「国境を越える海藻の流通と文化」をテーマとする研究集会を主催し、「海藻文化の総合研究に向けて」と題して報告し、関連する議論を行った。これにより東アジアを射程に入れた新たな研究の展開も見通すこともできた。 2021年10月及び2022年2月には、静岡県下田市須崎の財産区文書を調査する機会に恵まれた。当地で長年調査を続けてきた方の御厚意によるものだが、そのなかで磯場の漁業権と海岸線の陸地の所有権とが連動し、地租改正後、現代に至るまで陸地の所有権が私有地として細分化されず、「財産区」として残っている歴史事象を発見した。これは、本年度の最も大きな成果であり、今後の研究の指針にもなる。ただ、当該史料は地元の意向が複雑で、すぐに研究に利用できる状況にはない。幸い、この調査グループと共に別の科研が採択されたため、少し長期的に調査検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
著書1冊と調査報告書1冊を刊行し、研究報告を1回行い、東アジアを射程に入れた展望、また磯場と海岸線陸地の所有権が連動することなど、新たな分析視角を獲得できたのが、今年度の大きな成果である。それだけを見れば順調と言えるのかもしれない。ただ、当初計画した研究内容とはやや異なるため、本科学研究費の当初の課題に即して言えば、「(3)やや遅れている」を選択せざるを得なかった。 その要因は、言うまでもなくコロナ禍のなか史料調査が制限されたことである。都市部はもちろん、人間関係が閉鎖的な漁村では、入り込んでの調査作業を慎まざるをえなかった。また、学生を使っての史料データ整理を予定していたが、大学への登校自体が限定されるなか、そうした作業を十分に進めることも難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の状況を見ながら、まずは極力史料調査を行うこととしたい。また、これまで撮影データのみで済ませていた分を紙焼きするなどして、予算を有効に活用する予定である。学生を雇用してのデータ整理も進め、次の段階に移行する準備を行いたい。今年度から始める別の科学研究費の研究課題とも関連するため、連動させつつ、着実な研究報告と成果の取りまとめを進める所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため史料調査の出張ができず、また学生を雇用しての史料のデータ整理もほとんど行えなかったため。2022年度には、現地調査及び成果のとりまとめ作業に使用する予定である。
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