最終年度はここまでの研究成果をまとめる作業をおこない、成果の一部を史料紹介、および口頭発表で公表したほか、研究成果報告書をまとめて発行し、また岡山大学学術成果リポジトリにデジタルデータを公開した。公開した報告書のURLは次のとおりである。https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/63303 史料紹介「大阪市立大学所蔵の楢崎家文書の写について」(『市大日本史』24号)は大阪市立大学が購入した「楢崎家文書」の写の紹介であるが、その中で備後国の有力領主である楢崎氏について分析した。楢崎氏は慶長4年(1599)に至ってもなお、毛利氏から特別視される自立的な有力領主であるが、その本領部分の所領規模はそれほど大きくなく、また判物発給がないなど一定規模の領域的支配をおこなった形跡が見られないことから、単に自立的であるというだけで戦国領主と位置づけることには疑問があるとした。 口頭発表「戦国期の地域秩序形成と政治拠点―備作地域を中心に―」(武家拠点科研・岡山研究集会「備前・美作・備中における武家拠点の形成と変容―16-17 世紀を中心に―」)では、境目地域である備中国と美作国の地域秩序形成と武家拠点について論じた。両国とも16世紀前半までには幕府や守護の文書が発給されなくなり、地域権力による判物発給が見られるようになり、こうした文書発給をおこなう権力の拠点を中心として地域秩序が形成される。備中では毛利氏による支配体制にもこの地域秩序が規定性を持っている一方、境目地域として支配が不安定であった美作では地域秩序が確立しないことを述べた。 研究成果報告書では、既発表の研究成果の研究史上の位置づけを示し、理論的位置づけを明らかにした。また、大友氏判物一覧、北部九州判物一覧、備中・美作・備前判物一覧(付 長門・周防・石見・安芸・備後判物一覧)を付した。
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