研究課題/領域番号 |
18K00963
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西別府 元日 広島大学, 文学研究科, 名誉教授 (50136769)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 公卿勅使 / 駅家雑事 / 美濃国大井・茜部荘 / 礼儀類典 / 愛知県豊川市上ノ蔵遺跡 / 浜松市中村遺跡 / 宿 / 吾妻鏡 |
研究実績の概要 |
昨年提出の交付申請書にも記したように、歴史学的検証工程と歴史地理・歴史考古学的検証工程に区分される本研究のうち、2018年度は前者を中心に研究をすすめ、後者に関しては注目される情報入手の際に対応するというスタンスで着手したが、「現在までの進捗状況」欄にも記した諸事情により、大幅な見直し・変更を余儀なくされた。とりわけ、前者のうち、古文書・古記録から「駅家雑事」や「公卿勅使」関連史料を抽出し、原史料と校合する作業工程については、交通事情の悪化や日程的な支障によって十二分に完遂することができなかった。たとえば「駅家雑事」関係については、岐阜県に所在した大井・茜部荘関係で多く問題化していることが明確になったが、原文書での確認は史料保存機関である東大寺図書館における架蔵状況の把握にとどまった。また「公卿勅使」についても、平安・鎌倉期の基本的な派遣状況については文献的に把握し、関連史料の確認をおこなったが、その史料的吟味が進まず本年3月に国立公文書館の調査を実施したのみとなった。 歴史地理・歴史考古学的検証工程に関しては、前年度後半に、河川を渡河する作道(つくりみち)状遺跡としての愛知県豊川市上ノ蔵遺跡と、古代東海道に並行する中世的道路遺構が検出された静岡県浜松市中村遺跡の情報をえていたので、昨年6月に駅制関係情報の収集も兼ねて現地調査を実施した。その結果、前者に関しては、丘陵と丘陵のあいだを貫流する河川の渡河方式のひとつとして認識することができ、類似の技法が他地域で採用されている可能性を確信した。その内容については、本年6月に開催予定の中国四国歴史学地理学協会大会で部会報告をするべく、関連資料を収集している段階である。また、後者については、砂堤列を異にするものの、極めて近接して道路が敷設されていることが確認でき、古代官道と中世道路の近接性についてひとつの確信をえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度にあたる2018年度は、社会的・個人的要因が重複して、十分な調査研究活動が実施できずに研究計画の変更を余儀なくされるなど、遺憾にたえない年度であった。「実績の概要」に記した6月の現地調査は順調にスタートできたが、7月上旬の西日本豪雨によって、居住地周辺は交通体系が大打撃をうけ、長期にわたる運休・災害ダイヤでの運行という事態となり、夏季休業期から秋期にかけて行動を制約されてしまった。しかも、これとは異なる要因で、年度当初にはまったく予定していなかった、旧本務校での学部生の演習・講義を担当せざるをえない事態となった。このため、7月中旬から翌年1月にかけて大幅に時間を割かざるをえなくなり、この点でも本来の研究活動が大きく制約されることとなった。こうした計画の狂いは、2018年後半に文献史料や関連研究の著作をとおして検討しようと計画していた「公卿勅使」や「駅家雑事」などの国家的交通システムの実態的究明の部分にも及んでしまった。「公卿勅使」に関しては、これまでの研究がその意義や経緯にかかわるものが大半であって、交通システムの実態的運用という視点に乏しく、近江国瀬田駅家から伊勢神宮までの勅使の経路とその整備の実態などの交通史的確認が不十分であり、これを補うために具体的経路や実態に関しては、現地踏査も含め調査が不可欠であるが、その手当ができなかったことである。また「駅家雑事」についても、その実態を究明するうえで重要な事例を提供する可能性がたかい大井・茜部荘に関しても、一国平均役的に美濃国内で賦課される交通機能の補佐的状況を具体的に把握するためには、『岐阜県史』や大井荘にかかわる著作物などを読むとともに、現地踏査などを通して当該地域の地理的状況を認識しておく必要があったが、これらを実施できずに、表層的理解にとどまってしまっていることである。
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今後の研究の推進方策 |
第2年次にあたる2019年度における研究の最優先課題は、昨年度生じさせてしまった計画の遅れをとりもどし、申請当初に設定した軌道に復帰するとともに、今年度予定していた研究計画に着手することである。そのためには、「駅家雑事」の理解に不可欠な大井・茜部両荘関係の史料・先行研究を熟読・精査するとともに、その比定地の調査を実施することをとおして、実態的な理解と「駅家雑事」と称される賦課内容の解明につとめたいと考えている。また公卿勅使についても、従来の研究では無視されてきた交通史的観点からの史料解釈と実態把握につとめることとしたい。そのためには史料に登場する地域・地点の現地調査も不可欠となるといえよう。 幸いなことに、これらの緊急課題は、昨年の「交付申請書」にも記したように、歴史地理学・歴史考古学的手法にもとづく地域史研究的検証の工程にも一定度共通するものである。すなわちそこにも述べたごとく、これらの対象となる滋賀県・岐阜県・三重県などには、埋蔵文化財調査等によって「宿」遺跡の可能性が指摘されている遺跡等もいくつか存在し、それぞれの地域にかかわる文献や調査報告書、市町村等の自治体史など蒐集して、候補地を選別する作業をすすめなければならない県域と重複しているからである。 こうした点をふまえ、次年度はまずは第一に、当該地域の「宿」遺跡の可能性をもつ遺跡やその情報の洗い出しをおこないたい。この点については、2015年度までの遺跡情報についてはすでに調査済みであるので、残り3年分について追加調査をおこない、これらをふくめて滋賀等3県(場合によっては愛知県など若干のエリア拡大もありうるであろう)を踏破して、該当する遺跡を抽出することによって、次年度以降の研究にそなえたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
自然災害等によって予定していた現地調査等が十分に実施できなかったことと、情報・資料を調査収集するための人員が確保できなかったため、研究代表者本人が、資料を保管していただいている付属図書館等に出向き調査・情報収集にあたったため、謝金等が未執行となった。
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