研究課題/領域番号 |
18K00968
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
宮武 正登 佐賀大学, 全学教育機構, 教授 (90745324)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 陣 / 城 / 城館 |
研究実績の概要 |
当研究助成事業費の初年度に当たるH30年度は、各地の代表的陣跡の形状把握のため現地調査を中心に進めた。地域や時代的特徴に惑わされずに、全国平均的な「陣」の指標遺構を見出すため、特定地域での集中的調査をあえて避けて、複数地方の事例を横断的に踏査した。今年度の調査対象は、次のとおりである(成立年代順に列記)。 ①「応仁の乱」他、室町幕府関連陣跡(船岡山陣跡、足利義尚上釣陣跡、他)、②北関東の室町・戦国期陣跡(武蔵五十子陣、天命多々木陣、須花城、他)、③「長篠合戦」陣跡(大通寺陣跡、長篠城跡および外周部)、④小田原攻略時の豊臣軍陣跡(伊豆韮山蜂須賀家政陣跡、同前野長康陣跡、小田原徳川家康陣跡、石垣山城跡、他)、⑥「関ケ原合戦」陣跡(石田三成陣跡、大谷吉継陣跡、宇喜多秀家陣跡、他)、⑦「大坂の冬・夏の陣」関連遺跡(茶臼山陣跡、佐竹氏邸跡陣場遺跡、他) まだ調査の初期段階ではあるが、いずれも一般の中世城郭の構成要素である曲輪・土塁・空堀などの構築が認められ、①の船岡山陣跡(京都府京都市)や④の韮山蜂須賀家政陣跡(静岡県伊豆の国市)では、数百mに及ぶ土塁・堀からなる長塁が存在するなど、構造上の共通性が見えてきた。一方で、同じ④韮山攻城戦での陣跡である前野長康陣跡の場合は、複雑な虎口構造と折曲した塁線を集中させた「陣城」型式(長尾氏・佐野氏領境界線の係争地に成立した②須花城跡も同種)をなすなど、同じ戦場でも形状の異なる駐屯施設が併存する傾向が確認できた。こうした陣の類型と戦役の推移との相関関係について、今後の継続調査により明らかにしていきたい。 その他、中国・四国地区城館調査検討会、全国城跡等石垣整備調査研究会などの学会参加を通じて、各地の陣および城館関連遺跡の最新研究・調査報告に関する情報収集を行った他、大阪城天守閣、国立公文書館などでの陣関係文献史料の調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初に予定していた各地の陣跡調査の代表的事例のうち、特に遠隔地である近畿・東日本の対象地の調査に進捗が見られ、従来から把握されていなかった陣跡の平面形状解明や図化に成功している。 ただし、草木の枯季を主要な調査期間としているため、年度末の異常気象(降雪)により踏査を延期せざるを得なかった対象もあるため(関ヶ原および長篠合戦関連陣跡、北関東陣城跡)、次年度での調査研究事業での追加項目となる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の調査延期対象(関ヶ原、長篠合戦陣跡)の優先的把握と、東北地方の事例調査を完了させることで、まずは東日本の「陣」の全体的特徴を分析していく。年度後半には近畿・西日本の主要陣跡(賤ケ岳合戦陣跡群、中国地方の尼子氏・毛利氏・豊臣氏関係陣跡群)の調査に着手し進捗に努めたい。 まだ初年度を終えただけの現段階は、各地に分布する事例把握作業の緒に就いたばかりに過ぎず、「陣」の分類や発展過程などに触れた整理・分析までには至っていない。しかし既に、各戦役の展開と推移に応じた形態変化の発生の可能性について、具体的には、攻城戦のように軍勢の滞在性が強いケースと、遠征など移動性の強い戦役のケースとで、構築される陣の形態と規模に明確な相違が表れるとの仮説が提起できそうである。これが時代の進行に従って変化を遂げるのか、地方色が伴うのか、さらに多面的な視覚からの分析を加えながら、中世の「陣」の全体像の解明を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費見込み額の減(現地調査時のレンタカー使用に伴うガソリン消費量が少なく済んだため)により、次年度使用額が発生した。 旅費および消耗品(物品費)として新年度分助成金と合わせて使用する計画である。
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