研究課題/領域番号 |
18K00976
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
吉野 秋二 京都産業大学, 文化学部, 教授 (50403324)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 山城(山背) / 行基寺院 / 秦氏 / 紀伊郡 / 葛野郡 / 平安京 |
研究実績の概要 |
本研究は、古墳時代~平安時代、山城(背)北部地域(現在の京都市域)を主たる対象として、諸氏族を主体とする地域開発の史的展開を考察し、評価するものである。古代地域開発史研究は、都城制論、村落論を中心に重厚な研究史をもつ。本研究では、長岡京・平安京遷都の前後を通じて、山城北部の地域開発を多角的に考察し、両者の総合を目指す。 本年度(2019年度)は、秦氏居住地域(古代の葛野郡・紀伊郡域)を主たる対象に研究を行った。まず紀伊郡域について、吉野秋二「山背の行基寺院-紀伊郡域を中心に-」(菱田哲郎・吉川真司編『古代寺院史の研究』思文閣出版、2019年8月、337~348頁)を執筆した。紀伊郡は、山背国内では最も行基寺院が多い地域である。本稿では、法禅院造営など紀伊郡域を中心とした行基の活動と秦氏などの山背の在地氏族との関係を考察した。 葛野郡域に関しても、吉野秋二「平安前期の広隆寺と周辺所領」(『古代文化』第64巻第3号、2012年)で得た知見を深める作業を行っている。具体的には、広隆寺・松尾大社などの寺社史料、『平安遺文』収録の平安期の売券類を分析し、秦氏の居住状況、田畑の分布等の考察を進めている。 なお、平安京研究の現段階を示す成果として、吉野秋二「平安京を探る」(川尻秋生編『古代文学と隣接諸学8 古代の都城と交通』竹林舎、2019年、237~262頁)を執筆した。平安京研究の学際的研究の方法論を概観した上で、平安京右京四条一坊二町跡、左京三条一坊六町跡の発掘調査成果の意義を解説した。また、平安時代前期の貴族邸宅の歴史的性格について邸宅と庭園との関係を中心に論じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、古墳時代~平安時代、山城(背)北部地域(現在の京都市域)を主たる対象として、諸氏族を主体とする地域開発の史的展開を考察し、評価するものである。当初計画では、概ね2018年度は賀茂氏居住地域(愛宕郡西北部)、2019年度は秦氏居住地域(葛野郡・紀伊郡域)、2020年度は小野氏・出雲氏居住地域(愛宕郡東北部・西南部)を対象とし、最終2021年度は補足調査とまとめに充当する当初計画であった。 本年度(2019年度)は、秦氏について、吉野秋二「山背の行基寺院-紀伊郡域を中心に-」(菱田哲郎・吉川真司編『古代寺院史の研究』思文閣出版、2019年8月、337~348頁)を執筆した。従来研究が遅れていた山背の行基寺院の機能について、秦氏の地域開発との関連も含め解明することができた。また、葛野郡域の秦氏の活動についても、広隆寺・松尾大社などの寺社史料、『平安遺文』収録の平安期の売券類を分析し、秦氏の居住状況、田畑の分布等の考察を進めることができた。 本研究とリンクする都城制研究についても、平安京研究の学際的研究の現段階を論じた吉野秋二「平安京を探る」(川尻秋生編『古代文学と隣接諸学8 古代の都城と交通』竹林舎、2019年、237~262頁)発表することができた。貴族邸宅論・庭園史を中心とした成果だが、平安遷都以前の地域開発と平安京造営との関連についても言及した。 なお、口頭報告吉野秋二「古代の酒と労働」(京都産業大学日本文化研究所例会、2019年)も行っている。奈良・平安時代の京・近郊の造営現場を主たる対象に、酒の給与が持った意義を論じている。山城(背)北部地域の地域開発の実態を、労働力編成論の観点から考察した成果でもある。 以上、当初計画と若干内容は異なるものの、順調に研究を推進できた。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、小野氏・出雲氏を中心に研究を行う。 先行研究には、岸俊男「ワニ氏に関する基礎的考察」(『日本古代政治史研究』塙書房、1966年、初出1960年)、同「山背国愛宕郡考」(『日本古代文物の研究』塙書房、1988年、初出1978年)がある。研究代表者も吉野秋二「小野妹子-推古朝の外交と対氏族政策-」(2009年)で、小野氏が近江国滋賀郡から、山城国愛宕郡・宇治郡に勢力を拡大した経緯について考察したことがある。また2018年度に、口頭報告吉野秋二「「上京」と出雲寺・御霊神社―平安京近郊の地域形成―」(日本史研究会2018年4月例会)、口頭報告吉野秋二「愛宕郡の氏族と古代寺院」(古代寺院史研究会第47回例会)を行い、小野氏・出雲氏の活動と古代寺院跡との考察を行っている。本年度は、これらの口頭報告を学術論文として発表することを目指す。 小野氏・出雲臣氏の居住地域には、「山背国愛宕郡出雲郷計帳」、「山科郷古図」(12世紀中期)、貞観9年(867)「安祥寺資財帳」など地域の状況を俯瞰し得る寺院史料があり、上原真人編『皇太后の山寺』(柳原出版、2007年)など優れた先行研究がある。寺社の所領分布、水利の復原など焦点をしぼって、史資料の調査、現地踏査を行う。 なお、出雲氏に関する研究の一環として出雲大社(島根県)周辺域などで、史料調査、現地踏査を行う予定である。『出雲国風土記』など多様な史料が残り、先進的な地域史研究が行われている島根県域で史料調査、現地踏査を行う。現地では、出雲古代歴史博物館の学芸員などとの意見交換も行う予定である。
|