1年延長後、2021年度を最終年とした。2020年から移動の制約があったため、調査は思うように進んでいないものの、継続研究プロジェクトが始まったことで一旦一区切りとした。 研究開始時からの課題である、①可能な限り「引揚げ」を数量的に確認は、まだできていない。②「引揚者」「残留帰国者」に関する個別体験の集約・集積については、回想録の探索と収集を進め、さらに戦友会誌にも当った。地域史からの調査も継続して実施した。これについては、目録として整理し、公表できる準備を進めている。 また、冷戦下での南ベトナムの残留者については、該当者家族が聞き取りに応じてくれたものの、コロナ禍の制約のため、面談できたのは今年になってからである。南ベトナムでの残留者とその家族、現地日系企業との関係、帰国までのいくつかのパターンが明らかになった。ベトナム戦争が終結し、南北統一後の「境界変動」が残留者および家族へ与えた影響は、これまで見過ごされていた部分である。これによって、全体像の解明に少しでも近づけたと考えている。 研究会での報告は、「引揚げ」「残留」に関する研究蓄積のあるサハリン樺太史研究会での口頭発表が2年ぶりに開催されたことで、発表の機会を得た。南ベトナムの事例を入れたことで、ベトナムの特徴がより明確になった。しかし、帝国崩壊によるベトナムの特殊性について指摘を受け、理論的枠組みの見直しをする必要を感じた。今後の課題としたい。 継続研究プロジェクトとなる「残留の比較史研究:シベリア・サハリンから台湾・東南アジアまで」(代表:中山大将)で、他地域との比較によって「引揚げ」「残留」研究の意義を再検討するとともに、これまでの成果を整理し、論考として発表する予定である。
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