セレウコス朝およびアルシャク朝時代のアッカド語楔形文字史料『バビロン天文日誌』にしばしば登場する官職「4将軍の上に立つ将軍」について、筆者の博士論文の一部を発展させて論じた英語論文が刊行された。この中ではセレウコス朝領域の東半分をカバーする「上部諸属州」という地理的区分がユーフラテス河まで広がっていたこと、セレウコス朝時代の「4将軍の上に立つ将軍」が「上部諸属州」の総督であったこと、さらにアルシャク朝時代の「4将軍の上に立つ将軍」の管轄範囲がバビロニア属州に限定されたことが論じられた。 また第67回国際アッシリア学会 (67th Rencontre Assyriologique Internationale) において、『日誌』の記事を参照しながら、前108/107年にバビロニアで起こった衛生危機を、当時の社会に与えた影響も含めて考察した。同年の日誌には大麦の売買停止、価格上昇や王権による神殿財産強奪といった、厳しい社会経済状況を示唆する情報も記載されており、衛生危機との関係も想定されることを述べた。 さらにアルシャク朝およびサーサーン朝史の概略を、『日誌』の紹介や『日誌』「バビロニア年代誌」からの引用を交えて解説した。 またバビロンに存在した半円形劇場における、アルシャク朝時代の書簡の読み上げの記事(『日誌』に記される)をプロパガンダの観点から検討した英語論考が刊行された。 また2度の研究会およびそれをベースにした日本語論考において「ウルの王のゲーム(二〇マスのゲーム)」と呼ばれるゲームのルールを記したとされるセレウコス朝時代の粘土板BM33333Bを検討し、ゲーム盤を用いた占いについて新解釈を試みた。
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