研究課題/領域番号 |
18K00988
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井坂 理穂 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70272490)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インド / ユダヤ教 / 近現代 / 国民国家 / 移動 / 帰属 / 家族 / マイノリティ |
研究実績の概要 |
本研究は、近現代インドにおけるユダヤ教徒のライフ・ヒストリーの収集・分析を通じて、イギリス支配の解体、インド・パキスタンの独立、イスラエルの建国という流れのなかで、彼らが新たな「国民国家」の成立をどのように受けとめ、いかに対応したのかを分析することを目的としている。インドに長年定着してきたユダヤ教徒コミュニティにとって、インドとイスラエルという国民国家の創設や国民概念をめぐる議論が何を意味したのかを、自伝・回想録・書簡・文学作品、聞き取り調査などをもとに考察する。 2018年度は、イギリス・インドで史資料収集を行うとともに、本研究に関して国内外の研究者と活発な情報・意見交換を行った。まず5月に研究代表者(井坂理穂)、研究協力者(小磯千尋、鶴見太郎)で打ち合わせを行い、代表者がインドのユダヤ教徒コミュニティに関する研究動向について報告した。7月末には代表者がロンドンで史資料収集を行い、9月には代表者、協力者がともにインド西部のムンバイー、プネー、アリバーグでユダヤ教関連施設・組織を訪れ、史資料収集を行うとともに、ライフ・ヒストリーの聞き取り調査に向けた準備を行った。これらの海外調査を通じて、インドのユダヤ教徒たちの間での「自分たち」をめぐる語りが、インド・イスラエル双方の国内情勢や外交関係に加えて、よりグローバルな政治・社会変化と密接に連関するありさまが明らかになった。 このほか、7月には代表者がパリで開催されたヨーロッパ南アジア学会で、インドのユダヤ教徒女性たちに関する報告を行い、関連するテーマを扱う研究者たちとの交流を深めた。また、2019年3月に東京大学・南アジア研究センターで代表者が国際ワークショップを組織し、インドのユダヤ人教徒コミュニティについての研究で知られるYulia Egorova氏(Durham University)を招聘して情報・意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目のイギリス、インドにおける史資料収集は順調に進み、ライフ・ヒストリーの聞き取り調査のための準備も進展した。すでにインド西部の「ベネ・イスラエル」コミュニティに属する複数の個人・家族に対する聞き取りを始めており、それらの結果をもとに、今後さらに詳細な聞き取り調査を行う予定である。 また、学会参加やワークショップ企画などを通じて、インドのユダヤ教徒以外の宗教的マイノリティについて、あるいはインド以外の地域のユダヤ教徒について研究を行ってきた研究者など、関連するテーマを扱う幅広い分野の研究者と情報・意見交換を行った。こうした学術交流は、3年目に予定されている国際ワークショップにつながることが期待される。 なお、これまでに収集した史資料については、代表者、協力者が各自で分析を始めており、2年目以降はこれらをもとにした学会報告や論文執筆などを準備する。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、研究代表者・研究協力者間の打ち合わせを行ったうえで、8月にイスラエルで史資料収集、及び聞き取り調査を行う。イスラエルに住むインド出身の「ベネ・イスラエル」「バグダーディー」両コミュニティの人々を対象として、移住の背景や生活・意識の変化、インドとのつながり、「故郷」をめぐる認識などに着目しながら、彼らの語りを収集する。また、5月初めには研究代表者がインドを訪れ、デリーを中心に史資料収集を行う。 同年度には、これらの調査とあわせて、研究成果をまとめる作業を進める。7月には代表者がバンコクで開催されるAAS-in-Asia会議に参加し、20世紀前半インドのユダヤ教徒コミュニティの帰属意識に関する報告を行う。また、これまでに集めた史資料をもとに論文執筆に取りかかる。このほか、翌年度の国際ワークショップ開催に向けて、国内外の研究者との協議を進める。 本プロジェクトの最終年度となる2020年度は、研究代表者、協力者が再びインド西部を訪れ、聞き取り調査を行う。また、9-10月に開催される日本南アジア学会において、本プロジェクトの成果をもとにした研究報告を行う予定である。さらに、海外から研究者を招聘し、国際ワークショップを開催し、インド以外の地域のユダヤ教徒に関する研究を行っている研究者も交えて、ユダヤ教徒のライフ・ヒストリーからみた「国民国家」をテーマに議論を行う。このワークショップでの報告を踏まえて、雑誌論文あるいは報告書の出版に向けた準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度のインド出張に際して、研究協力者1名が他の資金を利用したことから、その余剰分を2019年度に回し、研究代表者が本研究の成果を海外の学会で報告するための費用にあてる。2019年度に新たに交付される研究経費については、当初の予定通り、イスラエル出張、インド出張、関連文献の購入などにあてる。
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