研究課題/領域番号 |
18K00997
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
土口 史記 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (70636787)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 簡牘 / 監察 / 中国古代 / 秦代 / 岳麓秦簡 / 里耶秦簡 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国古代の新出簡牘資料を用いて当時の監察制度の実態を解明しようとするものである。本年度の主たる成果は、近年公開された『岳麓書院蔵秦簡』第4分冊および第5分冊に所収の「秦律令」、および『里耶秦簡』第1分冊、第2分冊に基づくものである。 2018年8月26日には清華大学(北京)で開催された国際会議「第一屆出土文献与古代文明青年学者研討会」において「秦代監察制度浅論」と題する口頭報告を行い、秦代には執法・廷尉・丞相・御史・郡太守という多様な官によって県に対する監察が実施されていたこと、その具体的な職務分掌はなお不分明であること、多元的な監察系統が存在した原因は直轄支配領域が拡大したため監視対象となる官吏が増加した点にあり、これは前漢中期と頗る似た状況にあるということを明らかにした。 さらに2018年9月15日に武漢大学において開催された国際会議「楚文化与長江中游早期開発国際学術研討会」では「秦代地方支配途経再探」と題する口頭報告を行った。ここでは特に御史・執法の職掌に焦点をあて、両者は郡県の上級機関として、既存の行政管区を横断するかたちで財政・行政権限を執行できたという点を明らかにした。 また出土簡牘を用いた研究に関するこれまでの研究動向を整理したものとして、「秦簡牘研究の新展開」(『古代文化』第70巻第3号)を公刊した。また特に地方統治の面について、復旦大学で開催された「何謂「制度」?:中古制度文化新研学術工作坊」において「秦代"縣廷"研究的回顧与展望」と題する口頭報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『岳麓書院蔵秦簡』の第5分冊が公開されたことから、これに即応した研究を遂行し、秦代の多元的な監察系統の存在について明らかにしつつ、前漢時代との相似性について確認できた点は、研究計画において想定していた通りの順調な成果であると言える。その成果については主に中国で開催された国際会議で発表したが、うち2件は論文として公刊すべく既に投稿済みである。以上から、研究計画に照らしておおむね順調に進展していると判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に公開されるという『岳麓書院蔵秦簡』第6分冊の検討が今後の主たる課題となるだろう。本年度、中国での学会に参加した折に、当該史料の整理者に状況を伺う機会が得られ、それによれば「郡」関係の史料が豊富に含まれるという。そのため、本研究の計画の一部である郡の監察についても研究が進展することが予測される。一方で、岳麓秦簡の場合は非発掘簡であるがゆえ、その律令の部分の所有者がいかなる人物だったのかという点が不明な点が問題視される。これまでの公表部分については県吏対象の律令と見られるものがほとんどであったが、新規公開分が郡吏対象を中心とするのであれば、その所有者の人物像についても自ずと再考を迫られる。この点にも注意しつつ、秦代監察の実態についてさらに研究を進める所存である。
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