研究課題/領域番号 |
18K00999
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
八尾 隆生 広島大学, 文学研究科, 教授 (50212270)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 黎朝 / 国朝刑律 / 唐律 / 明律 / 天南餘暇集 / 洪徳善政 / 黎聖宗 / ヴェトナム |
研究実績の概要 |
本研究では厳密な資史料考証により、ヴェトナム前近代法制史に存在する二つの通説、すなわち①15世紀前半に成立したヴェトナム黎朝の根本法である『国朝刑律』が、黎朝前期の最盛期を築いた5代聖宗期(1460-97)の「洪徳律」に概ね基づくものである、②「黎朝根本法」すなわち『国朝刑律』とそれに続く「阮朝根本法」である『皇越律例』には大きな「断絶性」がある、を完全否定し、新しいヴェトナム前近代法制史像を構築することを目的とする。 この目的に沿い、①については研究代表者は2019年度中に『国朝刑律』校合本を公刊するべく、調査の済んでいないヴェトナム史学アカデミーと漢喃アカデミーで史資料調査を行い、公的機関では同書の校合に使用できるものはもうないと確信し、校合を完成させ、解説に加えて同書の来歴に関連する黎聖宗期に出された法令集原文(天南餘暇集や洪徳善政など)を付録とする校合本原稿を完成させた。同原稿は汲古書院より出版に関する同意を得て、現在出版に係る費用や出版にかかる日程調整を行っている。 ②については本科研申請後発足した「慶應義塾大学言語文化研究所漢喃資料研究会」に学外研究者として参加し、月一度の頻度で『皇越律例』の民間ダイジェスト版(字喃(チュノム)対訳付き)講読会に参加している。そして同会では開始1年を経ずして早くも同書が『大清律例』の単なるコピーに過ぎないとする説に異論が続出し、同書には黎朝後期の法制史料に見える条文がいくつか見られることなどが明らかとなっている。そもそも民族文字である字喃の対訳があること自体が、この律例を受容しようとする民間側の意志の表れであり、通説②が崩れるのもそう遠くないであろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記した通り、本科研研究の基礎となる『国朝刑律』校合本原稿を作成させ、他の律書(餘暇集、洪徳善政など)を付録とした出版準備を整えるまでに至った。いままでの研究代表者の同書に関する議論整理も同書の「解題」部分(雑誌論文3本分に相当)で行った。 黎朝後期の法制書収集に関しては、最近ヴェトナム側の制限が厳しくなり、時間がかかっているが、慶大斯道文庫に蔵されている旧ガスパルドン教授蔵本『国朝刑律』に『百家公案』が合綴されており、黎聖宗期や黎朝後期の法令が収められていることが明らかとなり、研究2年目の研究対象重要資料の一つとなるであろう。
|
今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に記した①②の誤った通説に関して、①の方は研究自体は終わったと考える。ただヴェトナム人研究者の大半はまだまだ①に拘っており、同書の校合本を公刊するとともに、研究代表者の説を述べた「解題」の部分をハノイ国家大学及びホーチミン国家大学で講演ないし、講義の形で公開したい。幸い、部局の入試担当研究課長補佐の立場にあるということで、両大学と学術交流関係を結んでいる両大学史学部・東洋学部では留学生獲得という形で「模擬講義」「公開講演」を行うことが許されている。 ②の克服に関しては、引き続き慶大の研究会を通して『皇越律例』独自の正文・条例抽出を行い、黎朝後期の法令集との比較作業を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は部局の入試担当研究科長補佐となり、種々の会議が夏季・冬季の休暇期間中にも開かれ、それらへの参加が要求されたため、史資料収集のための日程を圧縮せざるをえず、結果として「次年度使用額」が生じてしまった。2019年度もヴェトナムや東京での長期科研活動は制限されるが、短期でも活動回数を増やすことで、史資料の収集や研究報告につとめたい。
|