研究課題/領域番号 |
18K01003
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
赤木 崇敏 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (00566656)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 敦煌 / 中央ユーラシア / 唐宋代 / 仏教社会 / 敦煌文献 / オアシス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,9-10世紀の敦煌オアシスを対象に,イスラーム化以前の中央ユーラシア・オアシス地域における仏教と社会の関係を,文書史料および石窟寺院の銘文・図像資料から復元しようとするものである。本年度は,以下の研究を進めた。 (1)前年度に引き続き,寺院会計帳簿をもとに10世紀中葉-後半の仏教年中行事を復元し,その儀礼の内容・規模・儀式次第・参加者を分析した。また,その結果を前年度に構築したデータベースに組み込むとともに,敦煌の各社会層の関係性を考察した。 (2)寺院帳簿・契約文書などに見える人名・物品名から,農業・牧畜・貸付・製油・製粉など寺院の多角的な経済活動を分析し,寺院をめぐる人的移動(労働力,商人,牧畜業を代行する遊牧民,巡礼者,外国使節など)や物流(原材料,生産品,交易など)の規模を復元するとともに,寺院を中核とする敦煌オアシスの流通経済の仕組みを検討した。 (3)帰義軍時代の安西楡林窟の調査を行い,石窟造営に関わった供養人や漢文題記の調査,その成果を史料集としてまとめた。また,安西楡林窟および敦煌莫高窟のうち,敦煌オアシスにおいて仏教の最大の保護者であった帰義軍節度使(敦煌王)が造営・重修に関与した石窟を重点的に調査し,その題記に現れる官称号をもとに石窟の造営・重修年代を解明するとともに,政権と教団の関係や石窟造営の背景にある仏教思想について分析・口頭報告を行った。 (4)対象となる敦煌社会や敦煌石窟の歴史的背景に関して,また石窟の供養人像について,論文2本を発表し,学会発表2件を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き,既刊史料をもとに仏教年中行事の復元や寺院経済の仕組みについての分析を進めた。また,安西楡林窟の帰義軍時代の供養人像および題記については,現地調査の記録を史料集として整理し,主要な帰義軍時代窟の基礎情報を学界に提供できた。さらに,その内容を踏まえて,帰義軍節度使が造営・重修に関与した敦煌石窟の編年を復元し,また政権と教団の関係や石窟造営の背景にある仏教思想について分析し,それらの一部を口頭発表するなど,一定の成果を挙げることができた。 ただし,当初の計画で予定していた海外研究機関所蔵の敦煌文献の史料調査については,新型コロナウィルスの影響により取り止めたため,今後の研究に十分なデータを確保できたとはいいがたい。また,同様の理由で,本年度の成果の一部を年度末に発表する予定であったがこれも中止となった。
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今後の研究の推進方策 |
引きつづき,敦煌文献をもとに,仏教年中行事や儀礼を通じた各社会階層の諸関係,オアシス地域の流通経済における教団の役割について考察する。 また,本研究の柱の一つである,敦煌における王法と仏法の関係性については,本年度に敦煌石窟の供養人像や題記をもとに政権と教団の関係や石窟造営の背景にある仏教思想について検討を進めたものの,成果は一部にとどまった。次年度以降は,石窟や祈願文史料をもとにこのテーマの分析を深めたい。 このほか,敦煌石窟の帰義軍時代窟については悉皆調査を終えていないため,残りの年度ではまだ実見できていない窟を中心に調査を進める。また,上に述べたように本年度は敦煌文献の実見調査を中止としたが,それも次年度に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)事前計画では敦煌文献の海外調査を予定していたが,新型コロナウィルスの影響により予定していた時期での渡航が困難となり,その分の旅費を使用することができなかった。また,昨年度申請していた敦煌石窟の写真資料についてだが,今年度も撮影許可が下りなかったため,その分の残額も生じた。 (使用計画)次年度は敦煌石窟のほかヨーロッパの研究機関での史料調査を予定しており,それらの旅費の一部として使用する目処はついている。また,前年度に申請した敦煌石窟の写真資料代としても使用する。
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