研究課題/領域番号 |
18K01004
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松重 充浩 日本大学, 文理学部, 教授 (00275380)
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研究分担者 |
塚瀬 進 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (80319095)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国東北 / 大連 / 近代日中関係 / 租借地 / 旅順 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本租借下(1905-45年)の大連・旅順における中国人社会が如何なる発展実態を持っていたのかを、従来の<抵抗or従属>という二項対立図式的な理解を越えて、日本側諸主体との相互連関・相互変容の実相局面からの資料発掘と分析を通じて、実証的に明らかにするものであるが、研究初年度である平成30年度は、主に国内外における関連機関が所蔵する資料の調査・収集を積極的におこなった。 と言うのも、前述した研究目的遂行にあたっては、先ず、従前においてナショナリズムやイデオロギーの対立を軸に構築されてきた日本租界下大連・旅順の歴史像の相対化が不可欠であり、そのためには、多様で重層的な現地の生活や組織実態の再構築を可能とする、新たな資料水準の構築が不可欠となるからである。 具体的には、国立台湾師範大学、中央研究院近代史研究所档案館、東洋文庫、国際日本文化センター、日本大学文理学部などの関係諸機関で、新聞・雑誌をはじめとした各種定期刊行物、日本人・中国人の回想録、絵葉書や写真などの所謂ビジュアル・メディアを中心に調査を行い、必要なものに関しては複写を行った。特に、中央研究院近代史研究所档案館での調査で、大連をはじめとした関東州における中国人動向を記録した中華民国側公文書の存在を確認できたのは、従来の日本側資料のみにて大きく依存していた現地実態把握に、新たな資料水準を提示するものとして、大きな成果だった。 なお、当初計画で初年度に訪問する予定だった遼寧省档案館や大連市図書館ではなく、2年目の調査予定地だった台湾の関係諸機関を先に訪問したのは、遼寧省档案館や大連市図書館との事前調整が予想に反して不調に終わったためで、この点は、次年度改めてトライする予定であることを付言しておきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると判断した理由は、以下の通りである。 1.国内外の関連機関(台湾・中央研究院近代史研究所档案館、東洋文庫、国際日本文化センター、日本大学文理学部)における資料調査・収集が順調に行われ、当該機関における資料水準が確認でき、次年度以降の研究遂行における前提的必須情報の確保ができたため。 2.とりわけ、中央研究院近代史研究所档案館における、中華民国政府による在大連中国人動向の記録の所蔵確認は、それまで日本側資料にのみ大きく依存していた資料水準を刷新する可能性の存在を確認するものであり、大きな収穫となった。 3.また、上述した関係機関調査の中で、従来研究利用されてこなかった私家版をはじめとした日本人や中国人による多種多様な回想録を確認し、それらの中から日本人と中国人が直接的な関係を結んでいる部分の記述を摘出できたことも、次年度以降の研究遂行における資料的基盤を更に整備することとなった。 4.加えて、研究分担者(塚瀬進)および連携研究者(日吉秀松、木之内誠)との会議を計2回実施して(於日本大学文理学部、2018年5月・10月)、代表者(松重充浩)が主に生活空間における日中の相互接触と相互連関に関する資料情報について、分担者が大連における商業秩序における日中の分業と相互依存の関係に関する資料情報の報告を行い、それぞれの研究進捗状況に関する情報共有を行うと共に、連携研究者からの資料情報と分析視角に関する助言を得て、本格的に共同研究を開始する次年度に向けての環境整備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度以降の研究は、次の方策を通じて推進していく予定である。 1.初年度に調査・収集した資料の分析を本格化する。より具体的には、資料から個々の事実を摘出するのみならず、その個々の事実が如何なる諸主体間の相互依存・連関の下で成立・展開するものだったのかを分析・解明し、そこに内包される相互変容の実態と可能性の摘出を図る。その際に、従来は十分利用されてこなかった、各種ビジュアル・メディアも積極的に利用する。例えば、日本大学文理学部に多量に所蔵されている当該期の絵葉書資料を、従来の景観変化や切り取られる画像のあり方から作製者のアイデンティティやイデオロギーを確認する資料とし利用するだけではなく、そこに偶然記録された景観や人びとのあり方(看板の言語や意匠、人びとの仕草や人物間の距離、等々)から、日中双方の切り結びにより成立していた生活空間実態の摘出を積極的に行う。 2.以上の成果を踏まえて、最終年度では、当該地域の相互連関・相互変容を軸とする当該地域の新たな歴史像の構築を図る。また、その方法的当否の検討を含む研究成果の外部評価を兼ねた国際ワークショップを開催する。 3.なお、以上の一連の研究過程において収集・整理された資料に関しては、適宜データベース化して適宜Web公開し、成果の社会還元を図っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、初年度予定した中国遼寧省での資料調査が受入予定機関の調整不調により、台湾での調査に切り替わったことで、旅費が若干安価となったことによる。 次年度は、この次年度使用額を利用して、改めて予定している中国遼寧省での資料調査旅費に補填すると同時に、同地における資料複写費にも使用する計画でいる。
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備考 |
平成30年9月25日~11月4日に展示会「形象化された<満・蒙>:日本大学文理学部所蔵ビジュアル・メディアを中心として」(図録『形象化された<満・蒙>』[総29頁]も発行)を日本大学文理学部資料館にて開催し、本年度の資料収集成果の一端を広く社会に発信した。
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