研究課題/領域番号 |
18K01005
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
江川 式部 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (70468825)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 唐代 / 礼制 / 祭祀儀礼 / 藩鎮 / 節度使 / 石刻史料 / 地方社会 / 地域文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、祭祀儀礼や祠廟保護を通じた、中国唐代の藩鎮節度使の地域文化への貢献と意義について究明することを目的としている。初年度となる本年度は、まず研究の基盤となる文献目録類及び石刻資料集作成のための、専著・論文・墓誌等の新出土史料の資料情報の収集と整理を行った。 海外調査は資料情報を勘案して江川が北京で行い、中国東北部で出土した唐末~五代・遼時代にかけての出土史料を調査し、唐末~遼の北方藩鎮に関する資料を収集した。このほか元~明時代の墓廟碑や墓廟保護の勅命文等を合わせて調査することができ、唐代礼制とのつながりを検討するうえで新しい知見も得た。 以上の基礎研究を進めつつ本年度は以下の成果を発表した。まず5月の63回東方国際学者会議において「『大唐開元礼』礼目の再検討」とする研究報告を行い、その内容を『明大アジア史論集』第23号に発表した。ここでは王朝間における礼目の継受について検討を行った。また史料研究として「『大唐開元礼』の“如式”“如常式”について」を発表、礼典の略記部分について検討を加えた。収集した碑刻史料等にみえる藩鎮による祭祀の様子をふまえ、『開元礼』の実用性に疑問感じたことから、その性格の検討を行ったものである。加えて唐代の儀礼機会の一つである科挙に関する史料研究として唐・封演撰『封氏聞見記』巻三・銓曹の訳注稿を『札幌大学総合研究』第11号に発表した。研究協力者の石野智大氏も「唐代の里正・坊正・村正の任用規定とその内実」(『明大アジア史論集』第23号)を発表、唐代村落制度下の行政担当者と教化担当者の相違性について検討を行った。 以上の研究を通じて、まだ輪郭的ではあるが、礼制を視点としてみた唐朝の行政的文化的支配は、藩鎮を含む地方社会に対してかなり寛容的なものであった様子が見えてきている。今後更に史資料収集を進めつつ、その点も考慮しながら慎重に整理・分析を行っていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度となる本年度の研究計画では、まず研究の基盤となる研究文献目録及び石刻資料集作成のための史資料の収集を行うことを優先し、併せてそれを踏まえた研究成果を発表することができた。一方で、研究協力者の石野氏からは『続修四庫全書』史部・金石類所収の清代石刻書に新見の石刻題記が存在するという知見も寄せられ、急ぎ既存史料の洗い直しを行う必要にも迫られている。収集した史資料の整理と個別研究とは、当初計画のとおり次年度以後より順次行っていく予定であるが、今後予想される作業増についての対策が必要と考えている。本年度の研究はおおむね順調に進展していると評価できるものの、次年度以後は作業量を増やしつつ研究を進めていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の計画に沿って、藩鎮及び礼制研究文献目録の作成を目指して文献資料の収集とその整理を行い、また河北・山西・陝西を対象に寺観・祠廟に関する史資料の収集と整理とを継続する予定である。初年度は河北北部と陝西南部の史資料を中心に収集してきており、次年度以後はこれに陝西北部、山西北部・南部、河北南部を順次加えていく予定である。とくに最近では、中国で発表される新出土石刻の情報が、雑誌に掲載される以前にインターネットやSNSで発信され、日本にいながら即時に入手できるケースも多く、こうした情報発信にも目配りをしつつ必要な情報を効率的に集めていきたいと考えている。また初年度の研究作業時に『続修四庫全書』史部・金石類所収の清代石刻書や、『権徳輿詩文集』など唐人文集内にも、本研究の対象となる新見の唐代石刻文が見出せることがわかり、今後これら史料の洗い直しも並行して行っていく予定である。 また今後は、これら基礎的研究をふまえた個別事例の検討も行っていく。その成果は、現在参加している各研究会の例会等にて報告を行いつつ、専門内外の研究者からの視点や情報も得ながら、さらに分析を深めたうえで文章化し、各研究誌上にて順次発表していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度行う予定であった海外調査のうち、研究協力者の石野智大氏が家庭の都合により出張ができなかったため、これを次年度以後に使用することとした。また国内出張についても、訪問予定先の研究者より運よく資料提供が得られるなどした部分があったため無理に行うことをせず、その費用を次年度以降の物品費と出張費の補填に充当することとした。また人件費については主に論文翻訳料に充てる予定であったが、その必要がなくなったため、これも次年度以後の成果報告の際に活用したいと考えている。
|