研究課題/領域番号 |
18K01005
|
研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
江川 式部 國學院大學, 文学部, 准教授 (70468825)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 唐代 / 礼制 / 祭祀儀礼 / 藩鎮 / 節度使 / 石刻史料 / 地方社会 / 地域文化 |
研究実績の概要 |
令和2年度は研究三年目の最終年度であったが、新型コロナウイルス感染症の蔓延・拡大の長期化により、予定していた中国での石刻史料・拓本資料の調査及び国内における中国石刻関連資料の調査を行うことができなかった。このため本年度は平成30年度及び令和元年度に収集した諸資料の整理を進めつつ、既に整理したものの中から文章化できるものを論文にまとめ、専門雑誌に発表した。研究協力者の石野智大氏も、今年度は出張調査ができないなか、既刊の石刻史料集(図版・録文)や研究文献を中心に唐代の地方支配制度における県―郷―里の間の行政実務担当者レベルの活動実態に関する資料収集と分析とを行ってくれた。しかしながら本課題の研究遂行についてはなお十分ではないと判断し、令和3年度までの一年間の期間延長を申請した(認可済)。 現地調査はできなかったものの、基礎研究としての研究文献の収集・整理と目録の増補、また関連石刻資料の収集・整理は継続して行った。個別事例研究の成果としてまとめた「唐代の藩鎮と祠廟」(『國學院雑誌』第122巻2号)では、[bin]州(陝西省彬県)姜[yuan]公劉祠と魏州(河北省大名県)狄仁傑祠とをとりあげ、唐代後半期において地方の軍事・行政を担った藩鎮が、在地の祠廟や祭祀に関わる背景について追究した。また新刊紹介として「吉川忠夫『顔真卿伝-時事はただ天のみぞ知る-』」(『唐代史研究』23号)を発表したが、ここでは唐代後半期の藩鎮政策における重要人物の一人である顔真卿についての吉川忠夫氏の著書の内容を紹介しつつ、本研究課題に関連して宋代における顔真卿祠建立についても付言することができた。 以上の研究を通じて、地方藩鎮における祠廟再建の事実とその背景・動機が明らかとなり、礼制という視点からみた唐朝の地方藩鎮に対する行政的文化的支配は、かなり寛容なものであったという知見が得られつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究最終年度となるはずであった今年度の研究計画では、藩鎮及び礼制研究文献目録の作成と、可能であれば現地調査を行っての河北・山西・陝西の寺観・祠廟に関する新出・新確認史資料の情報収集、個別事例研究としての論文発表を予定していた。しかしながら、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症拡大による疫情の悪化その長期化を受けて、中国での現地調査を行うことはかなわず、また国内の資料調査についても、緊急事態宣言等に基づく国内移動の制限・大学からの出張自粛要請と、研究資料を収蔵する諸機関の利用制限もあり、出張調査については断念せざるを得なかった。先年度までに収集していた史資料に基づき、個別事例研究としての論文は発表できたものの、史資料の整理や分析・検討など基礎研究の部分について、なお不十分であると認めざるを得ない。 以上のことから、当初予定していた研究期間の延長を申請したのであり、本課題研究の遂行状況としては、遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、中国での現地調査及び国内諸機関での資料調査は困難となっている。このため本課題研究の延長期間となる今年度は、以下のように研究を推進する予定である。 まず基礎研究としての藩鎮及び礼制研究文献目録の作成を継続し、データの増補を行う。また同じく基礎研究として収集・整理を行ってきた中国河北・山西・陝西を対象とした寺観・祠廟に関する諸資料については、発掘報告書や専門雑誌上において既に発表されている情報に基づく増補に努めつつそれらを精査し、個別事例として検討できるものはまとめ、研究会等で紹介・発表を行っていきたいと考えている。とくに寺観碑・祠廟碑の内容については、何等かの地域的・時代的特徴を抽出できるのかという点についても、分析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度に行う予定であった出張調査は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、国内・国外のいずれも断念せざるを得なかった。疫情の終息が見通せない状況が続き、学会や研究会なども、中止またはオンライン開催となった。これらのことから、出張調査費・交通・宿泊費など旅費項目の支出の必要がなくなり、次年度への繰越額が生じた。 所属大学を除く外部の図書館・資料館等の利用ができない状況は続いており、一方で出張調査費や学会参加費等の旅費については、次年度においても執行額を大幅に抑えられるであろうと思われる。次年度に継続する予定の基礎研究には、史料集や研究書、考古発掘報告書・石刻資料集成などの研究文献の入手は必須であるため、繰越した使用額についてはこれら図書・文献の購入費に充当したいと考えている。また人件費については主に論文翻訳に充当する予定であったが、その必要がなくなったため、次年度の成果報告の際に活用したいと考えている。
|