本研究課題は本来令和2年度で終了の予定であったが、新型コロナウイルス感染症の蔓延・拡大によって、中国及び日本国内での石刻史料・拓本資料の調査を行うことが困難となったため期間延長を申請し、認可を受けた。このため今年度(令和3年度)を最終年度として研究を行ったが、疫情悪化による移動制限は本年度も続き、昨年度と同様に中国はもとより、国内の諸機関における出張調査も、外部利用者の制限によって行うことができなかった。従って、これまでに収集した諸資料の整理を行いながら、既刊の石刻関連資料や研究文献を中心に分析を行い、訳注の作成や研究発表を行った。 研究協力者の石野智大氏も、今年度も引き続き出張調査が行えないなか、石刻史料を用いて郷望とよばれる在地有力者に関する研究を行い、また唐朝の地方支配において重要な役割を果たした戸籍制度および身分制度について更なる検討を進めてくれた。 基礎研究としての研究文献の収集・整理と目録の増補、また関連石刻資料の収集・整理はできる限り進めた。その中で個別事例研究の成果として「中国唐代の死生観―官人が撰した家族の墓誌・墓祭文から―」(國學院大學文学部共同研究 公開研究会 『死生観の歴史学―人は死をどのように捉えてきたか―』、2022年2月13日(日))と題した研究発表を行った。これは唐後半期に山南西道節度使であった権徳輿という人物が、娘や娘婿、孫男・孫女等の身内の死に際して撰した墓誌・墓祭文等について検討を行い、改葬・集葬が行われる前後の経緯とあわせて、そこに込められた想いや死生観、及びそのかたちについて考察を加えたものである。昨年度に検討を行った、政治的な意図から在地の祠廟の祭祀に関わる節度使の姿とは異なり、節度使とはいえ一官僚として唐代社会の中で家族と家族墓をどう守り維持したかという側面を追究できたのではないかと考えている。
|