本研究は、オスマン帝国において近代的な社会保障システムとしての年金制度が、いつから、どのような形で整備されていったのか、また、それがトルコ共和国にどのように継承されたのか、さらに、こうした制度が人々の生活にどのような影響を及ぼしたのかについて、オスマン帝国・トルコ共和国の公文書と公営・私営企業が所蔵する一次史料、新聞・雑誌等を手掛かりに考察し、イスラーム社会における社会保障のあり方、オスマン帝国末期からトルコ共和国初期の社会の実像、具体的には家族や就業のあり様といった人々のくらしの実態を明らかにしようと試みるものである。同時にオスマン帝国とトルコ共和国の連続性に関する議論に社会史的観点から新たな見解を提示することを目標とする。 令和5年度は、研究期間の最終年度にあたることから、研究成果の取りまとめに必要な史料を補完するため、夏期にトルコ共和国大統領府オスマン朝公文書館において史料調査を行った。オスマン帝国における年金制度や社会福祉関係の文書の中で、これまで見落としていたものは無いか再度検索し、有用と思われる新たな文書をCDに収録した。特に年金制度のルーツを明らかにするため、16世紀までさかのぼって様々な史料の中から関連する文書を抽出した。また19世紀末から20世紀初頭の年金制度の運用の実態についての文書も収集した。 秋期以後は、これまで収集した史料のデータベース化を継続し、同時に史料を読み込み、研究成果の取りまとめを行った。
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