近年中東地域の政治的・社会的変動において、イスラーム政党への支持の広がりが目立つ。その先駆けともいえるのがトルコの公正発展党の躍進であろう。同党の支持層の拡大の背景には社会保障政策があるともいわれるが、こうした制度は、イスラーム共同体の相互扶助の理念と近代西欧的システムとを融合したオスマン帝国末期の諸制度を想起させる。本研究は、オスマン帝国における年金制度の成立の経緯と制度の実態を解明し、同時に年金制度が個人の人生に及ぼした影響を考察したものである。その成果として浮かび上がったイスラーム社会と福祉制度の関係は、現代中東社会の理解にも資するものと考える。
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